米国の資産家で著名な投資家のジョージ・ソロス氏が、黒田日銀が打ち出した「異次元の緩和策」によって、「円は雪崩を打って下落する可能性がある」と警鐘を鳴らしている。
アベノミクス効果で、円は2012年11月以降の6か月で約20%も下落。2013年4月9日の円相場は1ドル98円後半~99円台で推移しており、さらに下落しそうな勢いだ。
海外投資家、「国債の7割買い入れ」に警戒感
日銀の黒田東彦総裁は2013年4月4日、「現時点で必要な措置すべて講じた」と述べ、2%のインフレ目標を2年で達成し、その目標に向けて毎月の国債購入額に7兆円強を投じる「量的・質的金融緩和」を発表した。
月々7兆円強といえば、年換算で85兆~90兆円。新発国債のじつに70%(従来は30%)を日銀が買うのだから、まさに「異次元」の金融政策。これには世界中が驚いた。
米ブルームバーグによると、ジョージ・ソロス氏はニュース専門放送局のCNBCの「黒田総裁の采配をどう思うか」との問いに、「これはセンセーションだ。金融政策のタブーを打ち破っている。すごく大胆なことで、とても果敢な試みだ」と評価しながらも、「彼らが行っていることはとても危険だ。彼らがやっていることで何かが起こり始めれば、彼らはそれを止めることができないかもしれない」と話した。
「円が下がって、日本人が自分たちの資金を海外に移したいと考えれば、円は雪崩のように下落するかもしれない」と語り、海外への資金流出を制御できなくなると懸念している。
外為どっとコム総合研究所の神田卓也調査部長は、「国内では円安が進めば、株価が上がるので歓迎ムードが強いですが、やはり(国債の)発行残高の7割も買い入れるというのは異例ですし、ヘッジファンドを中心に、円安への期待よりも警戒感をもっている海外投資家は少なくありません」と、国内外で黒田日銀への評価は微妙に違うと指摘する。
実際に、「国内機関投資家にも、外債投資を増やそうという動きはあります」(神田氏)と、日銀が国債を買い入れることで手持ちの資金運用先を探すのに腐心する機関投資家も現れたようだ。
円暴落「まだ、気が早い」
もちろん、ジョージ・ソロス氏はヘッジファンドを率いる投資家だ。米ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ソロス氏は2012年11月以降の3か月間に、円安を見込んだ取引で約10億ドル(約940億円)の利益を得たという。
他にも「安倍相場」の円安で儲けたヘッジファンドは少なくなく、ヘッジファンドによる円売りがこのところの円安に拍車をかけたとの見方もある。ソロス氏の「円の崩壊」発言が、自らの投資を有利に運ぶ「ポジション・トーク」の可能性がないとはいえない。
みずほコーポレート銀行国際為替部の唐鎌大輔マーケット・エコノミストは、「円安傾向が続くことに異論はありません。ただ、円の暴落はまだ気が早い話です」という。というのも、「国債を売る投資家がいない」からだ。
「これまで機関投資家は運用先に困って国債を買っていましたし、国債がほしい状態はいまも続いています。(外債の購入などで資金が海外へ流出する)理屈はわかりますが(それがきっかけというのは)現実的ではありません。そもそも、日本は経常黒字国です。黒字が確保できているあいだは(円の暴落は)起こりません」