国際的ハッカー集団「アノニマス」を名乗るインターネット利用者が北朝鮮関連サイトに相次いでサイバー攻撃を行った問題で、被害を受けた宣伝サイトのひとつ「我が民族同士」が2013年4月9日、サイバー攻撃を非難する記事を掲載した。
特に、サイトに登録された読者の名簿が盗まれて公開されたことについて怒り心頭だ。名簿に名前が載っていた人に対して批判が相次いでいることを「魔女狩り」だと非難した上で、「ハッキング策動が徹頭徹尾傀儡によって操作された」と、韓国政府がサイバーを世論操作に利用しているという独自の主張も展開している。
トップページが金正恩ブタ画像に書き換えられた
北朝鮮の祖国平和統一委員会が運営する対外宣伝サイト「我が民族同士」をはじめとするサイトをめぐっては、2013年4月2日に「アノニマス」を名乗る利用者がサイバー攻撃を行い、金正恩政権を批判する内容の犯行声明を発表。4月4日にはサイトがつながりにくくなったり、トップページが金正恩第1書記とブタとを合成した画像に書き換えたりするなどの被害が確認された。さらに、「我が民族同士」にユーザー登録した読者のものだとされる名簿が約9000人分公開された。この名簿には、氏名、生年月日、メールアドレスなどが含まれており、韓国のメールアドレスも多数確認されている。
韓国では、国家保安法に基づいて「我が民族同士」を含む北朝鮮関連サイトを有害サイトに指定。韓国国内からはアクセスできない設定になっているが、迂回サイトを利用するなど「抜け道」はある。
韓国在住者が北朝鮮関連サイトに読者登録することは国家保安法に抵触するおそれがあることから、韓国のネット上では名簿に載っていた人物の特定作業が活発に行われ、左派の統合進歩党の党員、全国教職員労働組合のメンバー、パイロット、大学教員、記者などの名前が次々に取りざたされた。名前が出た人は、北朝鮮に同情的な「従北勢力」だとみなされ、朝鮮日報によると
「韓国にはこんなに多くのスパイがいるのか。全員を国会保安法で処罰し、北朝鮮に追放しよう」
といった声が相次いでいるという。
これを受ける形で、「我が民族同士」には4月9日、サイバー攻撃を非難する記事が3本掲載された。いずれも似通った内容だが、そろって名簿流出への反応を批判している。
ある記事では、アノニマスが「2千人余りの南側加入者の名簿を公開する妄動を働いた」と、流出した名簿が本物だということを事実上認めた上で、
「再びハッキング事件を口実にして 『従北魔女狩り』の度合いを上げている」
と批判。
4月8日には新たな犯行予告が書き込まれる
また、「一層明白になったハッキング謀略事件の真犯人」と題した別の記事では、
「傀儡が国際的なハッカー集団の反共和国(北朝鮮)謀略騒動に便乗して『従北』騒動を起こすことで、南朝鮮(韓国)人民の視線を集中させ、危機から脱しようと卑劣に策動していることを示している。また、今回の事件を口実に私たちの共和国(北朝鮮)に対する敵対感と対決の雰囲気を鼓吹することにより、反共和国対決策動に有利に利用しようと図っている」
と、韓国政府がアノニマスによるサイバー攻撃を利用していると主張した。
ただし、今回掲載された記事では、金正恩氏がブタと合成された画像についての論評は避けており、具体的な報復策についても触れていない。批判するにしても、
「逆賊一味が危機から脱しようといくら小細工を働かせてみても、自らの墓穴をさらに深く掘る愚かなことにしかならない」
といった表現で、北朝鮮側の今後の行動についての言及はない。
なお、「我が民族同士」のサイトは復旧したが、このサイトのツイッターアカウントは現時点でも乗っ取られたままだとみられ、4月8日には
「OpNorthKorea(北朝鮮へのサイバー攻撃作戦)は、これからだ。まもなく、北朝鮮に対する新たな攻撃が行われる」
と犯行予告が書き込まれたばかりだ。