中国で鳥インフルエンザ「H7N9型」による被害が増えてきた。2013年4月4日までに感染者9人、うち3人が死亡と報告されている。
人への感染経路は明らかになっていないが、鳥から豚を介して人体にうつる可能性が浮上した。そこで気になるのが3月、上海の川で見つかった大量の豚の死骸。中国の衛生当局は関連性を否定しているが、発生時期が近いこともあり何とも不気味だ。
厚労省と国立感染症研究所は「関連性証明されていない」
鳥インフルエンザの感染例は、中国・上海で男性2人が死亡したほか、江蘇省や安徽省、浙江省といった周辺地域でも確認され始めた。被害者は鳥肉の販売業者だった、あるいは豚肉を加工していたなどと情報が飛び交っている。
H7N9型ウイルスはもともと鳥が保有しているが毒性は弱い。今回人に感染したのは、ウイルスが変異したためとみられる。そのカギとなるのが豚だ。
2013年4月2日付の「ネイチャー」電子版によると、上海の2人と安徽省の患者の計3人は、ウイルスを保有する野鳥と接触した可能性は極めて低く家畜が感染源ではないかという。新型ウイルスは、鳥だけに感染する3種類のウイルスが集まってできあがり、ほ乳類の気道の細胞に結びつきやすい性質に変化、そのため鳥から豚を経由して人にウイルスがうつったとの見方を紹介している。
豚と言えば3月上旬、上海市を流れる黄浦江で大量の豚の死骸が漂っているのが見つかった。その数は1万匹を超え、川が飲料水の水源となっていたことから付近の住民を不安に陥れた。
死骸からは「豚サーコウイルス」が検出されたが、中国の衛生当局は人体に感染するウイルスではなく、水質への影響もないと説明した。しかし尋常ではない数の豚の死骸が、不衛生な状態で何日も川に浮かんでいたのは事実だ。上海から南西100キロほど離れた浙江省嘉興市から流された疑いが強く、長距離を漂流してきた死骸が「病原菌」をばらまいたのではないか、との疑いもわく。
厚生労働省や国立感染症研究所(NIID)のウェブサイトには、世界保健機関(WHO)が配信したH7N9ウイルスに関する質疑が掲載されている。その中に「この感染は、最近、上海周辺の河川に16,000 匹以上のブタの死骸が廃棄されたことと関係があるのか」とあった。いずれの回答も、豚の死骸は調査対象の一部で、H7N9ウイルスとの明らかな関連性は証明されていない、とのことだった。
当局発表が感染者死亡から20日経過していた
前出のネイチャーの記事によると、死亡した上海の男性2人が症状を訴えたのはそれぞれ2月19日と2月27日、亡くなったのが3月4日と3月10日となっている。上海の黄浦江で大量の豚の死骸が見つかったのは、発症から少し時間がたった後だ。この点だけを考えると、川に投棄された豚がウイルスをまき散らしたと考えるのは少々苦しいだろう。
ほかに感染者が出た江蘇省や安徽省は上海から離れており、感染者同士の接触により広がったという報告も今のところ聞こえてこない。一方、川の上流にあたる浙江省でも患者が見つかっているが、豚の死骸との因果関係は不明だ。
人民日報日本語電子版4月2日の記事では、上海の衛生当局が黄浦江に漂流していた豚の死骸のうち34体をサンプルとして鳥インフルエンザのウイルスがあったかを調べたが、検出されなかったとなっている。
ただ、完全に不安が拭いされたわけではない。上海市が鳥インフルエンザによる死亡事例を公表したのは、男性2人が亡くなってから20日も経過した後だ。「新型ウイルスと確認するまでに時間がかかった」と釈明し、意図的な情報隠しは否定したが、2003年に新型肺炎「SARS」が発生した際には情報公開の遅れが被害拡大につながったため激しい非難を浴びている。
WHOは「今後も新たな感染者が見つかる可能性が高い」としており、感染ルートの特定もされていない。一方で豚の死骸の大量投棄も、いまだに誰が何の目的で行ったかが解明されておらず、あれこれと不明な状態が続けば「何か関連があったのでは」と勘繰る声が出てこないとも限らない。