トヨタ自動車が電力の小売り事業に参入する。トヨタの100%子会社、「トヨタタービンアンドシステム」が2013年4月1日、特定規模電気事業者(PPS)への登録を届け出た。グループの販売店や事務所に供給する。国内で唯一、現物電力を売買する日本卸電力取引所(JEPX)への会員申請も準備中だ。
一方、日産自動車は他社への小売りはしないが、すでに自社事業所内の電力融通を始めているという。
グループの販売店や事務所に供給
トヨタ自動車は2013年7月から、トヨタタービンアンドシステムを通じて、電力の小売り事業に参入する。
12年9月の東京電力に続き、13年5月からは関西電力と九州電力も火力発電の稼働拡大による費用増などを理由に、電気料金を大幅に値上げする。電力コストが上昇する中で、トヨタグループの販売店や事務所などに、電力会社より安価な電力を供給して、電気料金の負担を抑える狙いがある。
トヨタタービンアンドシステムによると、電力は自家発電設備を保有する事業者や卸売電力市場(JEPX)などを通じて購入し、グループ会社などに販売する。「グループ以外への電力小売りは行わない」という。
供給力は、13年度は東京電力管内で数万キロワット程度を想定。トヨタの販売店数百店分の電力をまかなう、としている。
一方、日産自動車は経産省のPPS登録やJEPXの会員登録をすでに済ませている。ただ、他社に向けた電力の小売り事業への参入については、「参入しません」ときっぱり否定。JEPXでの取引は「自社事業所に限ったもの」と答えた。
とはいえ、トヨタや日産が登録しているPPSは、工場などの発電設備でつくった電力の余剰分や、自身が保有する発電所でつくった電力を一般電気事業者(電力10社)などに販売したり、JEPXを通じて他の会員事業者に電力を売買したりできる。
そのため、トヨタや日産が「その気」になれば、他社などへの売電はいつでも可能なわけだ。
発送電分離が進めば、電気事業者も増える
経済産業省によると、2013年4月1日現在で「特定規模電気事業者」(PPS)に登録している事業者は82社にのぼる。この1年で29社も増えた。
その背景には、「電力の自由化をにらんだ対応と、実際に太陽光発電や風力発電などによる電力の全量買い取り制度が始まったこと」(電力市場整備課)がある。
日本卸電力取引所(JEPX)の会員数も3月31日現在で60社。JEPXは、「最近は申請手続きをはじめ、さまざまな問合せが相次いでいます」と話す。
問い合わせが増えているのは、電力の「発送電分離」が進めみそうだからだ。
政府は4月2日、電力小売りの全面自由化や発送電分離を盛り込んだ「電力システム改革」の方針を閣議決定した。経産省によると、2010年度にJEPXで取引された電力量は56.8億キロワット時と、小売り販売電力量に占める割合はわずか0.6%にすぎない。「壁」になっているのが「発送電分離」だ。
PPSは電力会社に送配電ネットワークの接続料を支払う。電力会社にとってPPSは競争相手でもあるため、接続料を高くすれば、PPSが企業向けに販売する電力の単価は下げにくくなる。
そのため「発送電分離」の問題が解決に向かえば、電気事業者間の公平性が高まり、トヨタや日産のような電力事業への新規参入者が増えるというわけだ。