美人秘書「S嬢」と大人なロマンスを繰り広げる
ところがこの電子書籍が意外と面白い。冒頭、問題となったiPS細胞の臨床利用を「ボストン在住の優秀な外科医J」から国際電話で打診される場面からして、
「ちなみに、お前が良く知ってる患者なんだがね……」
「えっ。それはまさか……」
「おっと、すまない。これから緊急手術が入ったんでね。では、また後で。くれぐれもよろしくな」
といった調子で、やけに芝居がかった軽妙な会話が何ページにもわたって続く。他の場面でも森口氏がワインの知識を披露してみせたり、「J」の美人秘書「S嬢」と大人なロマンスを繰り広げたりと、まるでちょっとしたハードボイルド小説のような展開だ。なおS嬢とのくだりは本筋の「iPS騒動の真相」とほとんど関係がない。
森口氏はこの著書の中で、Jが執刀した1例の手術においては、間違いなくiPS細胞の「事実上世界初」の臨床応用がなされたとして、関係者からのメールなども掲載して自らの正しさを強調する。
とはいえ、手術を受けた患者からの森口氏へのメール画像がなぜか原文ではなく「日本語訳」だったり(他の英文メールはほとんどがそのまま)、「J」が写真まで載っていながら素性が明らかにされなかったり、論文に(森口氏の言う)「誤り」が生じた理由があいまいだったりと、肝心な部分で不明瞭な点が多い。臨床実験の背後に米軍などが関わっており、その圧力があったのではとの見方も示唆されているが、確証は全くない。
もっとも森口氏は相変わらず自信満々だ。最終章では、問題の手術を元にした学術論文がまもなく医学誌に掲載されると予告し、文章をこう結んでいる。
「To be continued」