大手新聞社が近年、電子版を有料化する方向へ動いている。紙版の購読者数が減少傾向にあるなか、従来は無料だった電子版を収益の柱に育てたいようだ。
英大衆紙「デイリーメール」を発行するDMGメディア社は、この流れに逆らうように電子版「メールオンライン」の無料配信を続けている。紙とインターネットの両方でニュースを配信する媒体としては、同社は電子版の閲覧数が世界一。デジタルコンテンツによる広告収入が、紙版を十分補っている。
「世界で最も読まれている新聞電子版」に選ばれる
デイリーメールには、ソフトな話題やゴシップ記事といったコンテンツが並ぶ英字紙で、読者からの人気は高い。調査会社コムスコアが2012年12月13日に発表した「世界で最も読まれている新聞電子版」では、訪問者数ベースで米ニューヨークタイムズや英ガーディアン、人民日報電子版を抑えて堂々のトップに輝いた。さらにDMGメディアが2013年3月26日に開いた投資家向け決算報告で公表された資料を見ると、閲覧者数では2012年5月以降、デイリーメールはNYタイムズを一貫してリードし、2013年2月時点でその差は25%まで広がっている。読者数の競争相手としては、ヤフーやハフィントンポストのようなネット専門のメディアに照準を合わせる段階に入ってきたようだ。
読者数増に比例して、収益性も向上している。月間売上高は2年前と比較して223%アップと絶好調だ。DMGメディア社全体でも、メールオンラインを主力とするデジタル部門の2012年の売上高は、前年比34%増の1億5000万ポンド(約211億5000万円)で、総売上高の5分の1弱にまで成長している。
スマートフォンやタブレット型端末向けに無料アプリを開発、提供して読者のさらなる獲得に余念がない。実績も伴っており、モバイル機器によるサイト訪問者は年間ベースで109%増となり、比例してモバイルによる売上高も180%増となっている。
メールオンラインは現在も無料で閲覧できる。現時点でコンテンツに課金する予定もなさそうだ。「米国市場でのブランド力向上」を掲げ、広告獲得にさらに力を注ぐという。収益拡大のカギは有料化ではなく、あくまで広告にあると見ているようだ。
NYタイムズの紙版広告売上高は「右肩下がり」
興味深いのは、紙版の新聞「デイリーメール」の売上高が前年比で1%しか減っていない点だ。これは購読料と広告売上高の両方を合わせた数字だが、健闘していると考えてよいだろう。例えばNYタイムズの場合、2013年2月7日に発表した通年の決算によると、購読収入は「大きな部分を占める紙版と、急成長を遂げるデジタル版がけん引」して改善したが、紙版の広告収入は芳しくない。2012年度第1~4四半期を順に見ていくと、それぞれ前年同期比で7.2%減、8.0%減、10.9%減、5.6%減と「右肩下がり」なのだ。
国内主要紙では日本経済新聞や朝日新聞が、電子版の一部有料化をスタートさせている。朝日新聞の場合は有料会員が2013年3月5日現在で10万人を突破したと発表したが、800万近くに上る紙版の部数と比べるとまだ収益の柱とは言えない。一方で「Yahoo! ニュース」でも有料記事を配信するなど、広告だけに頼らない販売モデルを広げていくのは間違いなさそうだ。
米国でもワシントンポスト紙が今夏から電子版の閲覧に課金することを明らかにしている。メールオンラインはこうした流れに反しているが、今のところ死角は見当たらず、異色の存在と言えそうだ。