「本人がもっとも戸惑っているのではないか」
だが記録面を除けば、長嶋氏の受賞に異論を挟む向きは少ない。4月2日付のサンケイスポーツには、野球評論家の野村克也氏と江本孟紀氏がコメントを寄せた。野村氏は「長嶋にはとにかく人気がある。記録や業績だけで生まれるものではない」と称え、江本氏も「長嶋さんを第1号にしてしかるべきだった」「巨人ファンではなく、長嶋ファン。そういう人は他にいない」と絶賛する。
一方、松井氏については「他にふさわしい人がいるのではないかとも思う」(野村氏)、「もっと球界に貢献してからでも遅くない」(江本氏)。「若すぎる受賞」には違和感があるようだ。
スポーツジャーナリストの菅谷齊氏は、「『なぜ、今なのか』と首をかしげざるをえなかった」とする。一方で「松井の場合、本人がもっとも戸惑っているのではないか。『今後、何十年かけて、賞を頂いて失礼ではなかったと証明できるよう努力したい』とのコメントに表れている。まじめ人間だけに重荷にならなければいいが」と心配する。
2人が同時に選ばれたのは、両氏が師弟関係にある点も考慮されたようだ。ドラフト会議で松井氏を1位指名し、巨人に入団させたのが当時監督だった長嶋氏。松井氏も2012年12月に引退を表明した際に、最も印象に残っているシーンに「長嶋監督と2人で素振りした時間」を挙げるほど、信頼関係は今もゆるぎない。1977年に定められた「国民栄誉賞表彰規定」によると、表彰の対象は「内閣総理大臣が本表彰の目的に照らして表彰することを適当と認めるものに対して行う」とあるだけで、具体的な選考基準があるわけではない。長嶋氏と松井氏の場合、野球での実績だけでなく、堅く結ばれた師弟関係といった人間性も含めて賞の授与にふさわしいと評価されたのだろう。