生活保護の不正を見抜けなかったのは、行政の重大な過失だ――。北海道滝川市の幹部に約1億円の賠償責任を認めた札幌地裁の判決が、妥当かどうかを巡ってネット上で論議になっている。
不正受給は、元暴力団組員の男(47)と妻(42)が、1回20万円以上もの介護タクシーを使っていたというケースだった。
ネット上では、賠償命令への賛否が分かれる
この夫婦は、毎日のようにタクシーを使い、2006年3月から07年11月までに計2億3886万円を受給していた。2人とも、すでに詐欺罪などで実刑判決が確定している。
報道などによると、札幌地裁の浅井憲裁判長は13年3月27日の判決で、滝川市から札幌市の大学病院に向かう通院の頻度が多く、医師の意見が割れていたことから、06年11月には不正が疑われたと指摘した。そして、自宅訪問や預金調査などをすれば、07年6月には生活保護の支給をストップできたとして、滝川市が元福祉事務所長と元福祉課長にそれ以降の支給額9785万円の賠償を求めるよう命じる判決を言い渡した。
浅井裁判長は、「支給額が極めて異常」だとして、行政が不正を見抜けなかったのはおかしいと断罪している。ただ、この住民訴訟では、田村弘前市長ら幹部5人の賠償を求めていたが、前市長ら3人についての請求は退けた。
弁護団は、前市長らの責任を認めなかったはおかしいとして控訴する方針だと報じられた。一方、前田康吉現市長は、「適切に対応したい」と述べるに留まっている。
賠償命令がニュースになると、ネット上では、様々な意見が交わされた。
判決に賛同的な意見では、「一回のタクシー代が20万円以上なのを異常と思えない感覚が理解できない」などと行政の怠慢を指摘する声が上がった。判決には疑問があるとする意見もあり、「相手がヤクザだから怖かったんでしょ」といった声が出ていた。
介護タクシーに1回20万円以上は不自然
不正受給の夫婦は、実際には札幌市内で他人名義のアパートも住居に使っており、滝川市から通院していた実態もなかった。タクシー会社の役員も共謀していたことが分かっている。
とはいえ、たとえ通院の実態があったとしても、介護タクシーに1回20万円以上も支払うのは不自然だ。
ある生命保険会社の広報担当者は、「加入した保険に通院特約があっても、限度額など条件がいろいろあり、20万円の満額にはならないはず。入院を何日かしないと通院が支払われないこともありますし」と首をひねる。
受給者で通院費をほとんど支払えないとしても、なぜ公共交通機関を利用したり、転院・転居したりしてもらわなかったのかという疑問がある。
滝川市の福祉課では、交通機関利用がなかったことについて、こう説明する。
「夫は、一種一級の身障者手帳を持っており、大学病院の医師に聞いても利用は難しいとのことでした。血中の酸素濃度が低い『肝肺症候群』という病気で、酸素を吸入しながら車いすで移動しており、安静が必要だと言っていました」
ただ、まったく歩けないわけではなかったという。
転院については、医師はこの大学病院に通うのが適当だと言っていたとした。また、札幌市への転居については、夫婦は「子どものいじめが原因で滝川市に来たので戻れない」と主張したそうだ。
しかし、札幌市内のほかの学校へ子どもが転校することは拒否したという。福祉課では、「あくまでも居住地を選ぶのは本人で、命令する権利はありません」と言うのみだった。
元暴力団組員だったことについても、「強要したり怒鳴り声を上げたりすることもなかったですし、大声を出すお年寄りなどと対応は同じです」と、怖かったことを否定している。