愛知・三重県沖の海底地層から、未来のエネルギー源として期待されるメタンハイドレートの試験的採掘に成功したニュースが、世間を騒がしている。これに限らず、日本近海での資源開発への期待は高まる一方だ。
日本の領土は世界60位だが、領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせた面積は447万平方キロと、世界第6位の"海洋大国"だけに、その開発戦略をいかに描くかが重要になる。
国内の天然ガス消費量の約100年分
最近の一番のトピックスは石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が2013年3月12日、世界で初めて海底でメタンハイドレートを分解し、天然ガスの主成分であるメタンガスの試験採取に成功したこと。今回の愛知・三重県沖の東部南海トラフ海域だけで国内天然ガス消費量の10年分以上を賄うメタンハイドレートの埋蔵が見込まれる。
秋田、山形、新潟県、北海道・網走沖などでも存在が有力視され、日本近海のメタンハイドレートの埋蔵量は、国内の天然ガス消費量の約100年分に相当するとも推計される。政府はガスを安価に採取・貯蔵する技術を5年以内に開発し、2018年度の実用化を目指す。エネルギーの95%を海外からの輸入に依存している日本は、福島第1原発事故で原発再稼働が見通せない中、「メタンハイドレートがエネルギー確保の切り札になる」(経産省幹部)と期待する。
メタンハイドレートは天然ガスの主成分メタンを水分子が囲んだ構造体で、低温・高圧の環境の地底や海底に氷結した状態で存在するので「燃える氷」とも呼ばれる。メタンは、そのまま大気中に放出されると二酸化炭素(CO2)の20倍もの温室効果があるが、メタンを燃焼させた場合のCO2排出量は石油や石炭の半分とされ、地球温暖化対策としても有効なエネルギー源と目される。
佐渡沖海底では4月以降に試掘
レアアース(希土類)もある。3月21日、独立行政法人海洋研究開発機構と加藤泰浩・東大教授の研究チームが東京都・南鳥島沖の深海に大量のレアアースを含む泥が堆積していて、海底から浅い場所で、泥に含まれるレアアースの濃度が、中国の鉱山の30倍超に達すると発表。沖縄県・久米島沖では独立行政法人産業技術総合研究所の調査船が、熱水(マグマに温められた熱い湯)が海底で温泉のように噴出しているのを発見した。通常、熱水の周囲にはレアアース等の資源があることが多く、期待を集めている。
新潟県・佐渡島沖では100平方キロ以上の海底に石油か天然ガスが埋蔵されている可能性があるとして、4月以降、試掘作業が始まる見込み。
このほか、沖縄や東京都・小笠原諸島の周辺には金、銀、銅、亜鉛、鉛などの貴金属、重金属を含む熱水鉱床の存在が分かっている
やや古い数字だが、日本プロジェクト産業協会(JAPIC)が2008年にまとめた海底資源の推定埋蔵量は、▽熱水鉱床の金や亜鉛などの原鉱石7億5000万トン▽コバルト・リッチ・クラスト(海底の岩石を覆う厚さ数ミリ~十数センチのアスファルト状の酸化物の層)のマンガン、ニッケル、チタンなど24億トン▽メタンハイドレート12億6000万立方メートルなど。
開発コストは相当高い
ただ、深い海の底だけに、開発コスト低減は簡単ではなさそうだ。メタンハイドレートの場合、水深約1000メートルの海底を約300メートル掘り下げてガスを取り出した今回の愛知沖の試験採取コストは100万BTU(英国熱量単位)当たり約50ドル。日本の天然ガス輸入価格は約15ドルを上回っているが、その3倍以上だ。
ちなみにシェールガスの米国での市場価格は約3ドルとされ、これを液化して日本に運んでくるコストを上乗せしても10ドル程度になるとの試算もあり、メタンハイドレート開発のハードルは高い
政府は3月末をめどに、今後の海洋政策の指針となる「海洋基本計画」の策定作業を進めている。2月に公表した素案では、こうした資源開発ともからんで、海洋の安全確保、離島の保全といった安全保障面もテーマとして掲げている。尖閣諸島をめぐる中国との緊張の高まりを含め、いかに安全に資源開発を進めるかも大きな課題になる。