部活動や生活指導での体罰が問題となって処分を受けた教師が、その後も再度生徒をたたく、蹴るなどしていた例が各地で報告されている。
学校側の対応が甘いのか、教師自身に体罰がしみついているのか。専門家は、こうした教師にこそ生徒の「動かし方」をトレーニングする必要があると話す。
体罰を受けて育った教師が生徒にも押しつける「暴力の連鎖」
埼玉県教育委員会は2013年3月22日、県立高校の47歳の男性教諭を3か月間の停職処分にしたと発表した。部活中などに生徒8人に対してものを投げつけたり、足を蹴ったりしたという。別の4人の生徒には脅すような発言もしていた。報道によると、この教諭への体罰による処分は3回目だという。千葉県教委も3月6日、君津市立の中学の男性教諭(35)を戒告処分とした。野球部員6人に平手で頭やほほ、腹をたたいたのが理由だ。この教諭も2011年度に体罰で君津市教委から文書訓告処分を受けていた。
京都市でも3月、男子バスケットボール部の顧問だった男性教諭(29)が、以前体罰で保護者に謝罪していたにもかかわらず再度部員をたたいたりしてけがを負わせ、懲戒処分となっている。
バスケットボール部顧問による体罰が原因で2012年12月に生徒が自殺したとして問題になった大阪市立桜宮高校。それ以前にバレーボール部でも、顧問の男性教諭による体罰があった。NHKが2月12日に放送した「クローズアップ現代」では、当時の状況を振り返った。バレー部員が耐えかねて体罰の様子をメモにとり、学校側に訴え出たが状況が好転しなかったため、大阪市教委に談判。教諭は停職3か月となった。
だが生徒側は、「復職後」に不安を覚える。校長は「自己反省は十分と見ている」と答えたものの、再発防止として教諭に行われた指導は「新聞記事や本を読ませた」程度。結局、根本的には何も解決しないまま、処分が明けて復帰した教諭はまたも、部内で体罰を再開したという。
1度体罰で処分されていながら、なぜ同じ過ちを繰り返すのか。教師本人の資質の問題はあるが、東京学芸大学教育実践研究支援センターの小林正幸教授はJ-CASTニュースの取材に「暴力の連鎖、指導技術のなさ、子どもの集団の動かし方を学んでいない」といった要因を挙げる。「暴力の連鎖」とは、教師自身が体罰を受けて育ち、その「効果」で力や技術が身についたと信じていると、指導する立場になって今度は生徒に自分の「体験」を押しつけるのだ。
説明不足なのにイメージ通りにならないと手を出す
子どもの集団に的確な指示を出すのは難しいと、小林教授は指摘する。例えば100人の子どもに対して「手をつないで校庭の真ん中で輪になってください」と命じたら、どうなるか。校庭の内側と外側どちらを向けばよいのか、手のつなぎ方はどうするのか、情報が不足していて子どもは混乱してしまう。指示を出した側の手落ちだ。
体罰を繰り返す教師の場合、こうした言葉足らず、指示のミスは本人の責任にもかかわらず、「イメージした通りに子どもが動かず『お前たち、何をやっているんだ』と怒鳴りつけ、手を出してしまう」というわけだ。「でも子どもにとっては『ちゃんと説明されていないのに』と困惑してしまうのです」。
教師には、「子どもが間違えるのは、自分の指示ミスが原因」という事実を体感して分からせるような研修が必要だと、小林教授は話す。何かアクションを起こさせるにも細かく分かりやすい指示を与え、それをクリアするたびに「いいね」「OK」と声をかけて生徒の動きに「承認」を与える。教師自身が間違えたら「ごめん」と素直に謝り、成功すれば「ありがとう」と感謝するのも大切だ。また一流の指導者は、試合で負けた部員に「何が悪かったと思う」「どんな練習をすればいいかな」と本人に考えさせ、答えをみつけさせるという。
2月12日放送の「クローズアップ現代」でも、早稲田大学スポーツ科学学術院長の友添秀則氏が同様の指摘をしていた。顧問教師が部員に「どうすればできるか」を説明せずに「やれ」と命令するだけ、言葉が足りないのに自分のイメージが伝わらず部員が力を出せないと体罰に走る、という構図だ。友添氏は、顧問教師に集中する権限を生徒に委譲して練習メニューを自分たちで考えさせるなど自主性を育み、指導の際は「ここをこうしたらどうか」と具体的なアドバイスを送るのが大事だと述べた。