北朝鮮が米韓軍事演習「キー・リゾルブ」に反発して朝鮮戦争休戦協定の一方的白紙化を宣言して以降、「今や言葉で相手する時は過ぎ去った」などと言動を過激化させている。
宣伝サイトでは、戦争に実際に突入した際のシミュレーション動画まで公開しており、緊張がこれまでになく高まっている。
金正恩氏「今や言葉で相手する時は過ぎ去った」
国営朝鮮中央通信は、金正恩第1書記が朝鮮人民軍の部隊を視察する様子を連日のように伝えており、その内容が穏やかではない。例えば3月20日に米国の巡航ミサイル「トマホーク」の迎撃設備を視察した際には、正恩氏は、
「今や言葉で相手する時は過ぎ去った、今、直ちにでも戦いが始まるなら、敵を容赦なく掃滅しろ、降伏書に判を押す者もいないように一人残らず撃滅しろ」
と発言。3月23日に別の部隊を訪れた際も、
「敵が気づく暇を与えず連続強打を加えて敵を容赦なく掃滅しろ」
と、檄を飛ばした。
3月21日には、戦争に突入した際のシナリオも示した。北朝鮮の宣伝機関「祖国平和統一委員会」が運営するウェブサイト「我が民族同士」が、「3日で終わる短期決戦」と題した4分程度の動画をユーチューブに公開。動画によると、3日間のシナリオは、このようなものだ。
1日目は、砲兵部隊が命令を受けてから30分間にわたって240ミリ放射砲と中長距離砲25万発、地対地短距離ミサイル1000発を米韓連合軍基地に向けて発射。あわせて、軽歩兵部隊5万人が空と陸から、発電所や軍事施設に奇襲攻撃を仕掛ける。さらに、韓国に駐留している米国人15万人を捕虜としてつかまえる。米韓連合軍に致命的な打撃をもたらし、壊滅状態に陥らせると主張している。
2日目は「南進総攻勢の日」と位置づけ、戦車4600台と装甲車3000台が南進し、兵士1万人が空から市街地に侵入して破壊工作を繰り広げる。動画では、ソウル市内を背景に空挺部隊が降下する様子が合成されており、
「米軍太平洋司令部の部隊を、大量破壊兵器で先制攻撃し、一瞬にして制圧するだろう」
というナレーションが入っている。
3日目には、ソウルやその他の都市のインフラは壊滅し、戦闘は終了。北朝鮮軍が占領地の治安を維持しながらインフラの復旧を行う「安定化作戦」を行うとしている。
1950年にもソウルは3日で陥落、動画は「ハッタリでも何でもない」
こういった状況を、コリア・レポートの辺真一編集長は、
「ここ2週間ほど、これまでになく風船が膨らんできている状態。どこかでガス抜きしないと、破裂する」
と危惧する。ユーチューブの動画についても、1950年の朝鮮戦争でもソウルが開戦後3日で陥落したことから、
「北朝鮮からすると常道。ハッタリでも何でもない。北朝鮮の言うことは、ばかばかしく見えるが、これまで米軍が戦ってきたリビアやイラクに比べると、(北朝鮮は)それほど弱くない」
と警告している。
辺さんによると、米朝間で唯一残されている対話の可能性は、北朝鮮が核開発とミサイル発射を凍結する代わりに米国との平和協定への道筋をつけること。だが、度重なる核実験の強行でオバマ政権はすでに強硬姿勢で、このシナリオも「まったくゼロではない。首の皮一枚つながっている状態」(辺さん)といった程度の心許ないものだ。