日本の国際収支の悪化が止まらない。2013年1月の国際収支速報(財務省まとめ)によると、モノ・サービスなど海外との取引状況を示す経常収支の赤字は3648億円だった。
現行方式の統計が始まった1985年以降では初めての3カ月連続赤字だ。赤字額は過去2番目の大きさだが、政府がミャンマーに対する延滞債務を解消したことに伴い、帳簿上で発生する返済額1585億円を計上したという特殊要因がなければ赤字額は5000億円を超え、2012年1月の4556億円を上回る過去最大になっていた計算。円安・ドル高が進んだことで燃料や原材料価格が上昇し、輸入額が膨らんだことが響いた。
円安で輸入が膨らみ、貿易赤字が拡大
輸出入を差し引きした貿易収支が1兆4793億円という過去最大の赤字になったのが経常赤字の最大に理由。特に、輸入が前年同月比6.6%増の6兆1254億円に増えたためで、円安・ドル高のため円換算の輸入が膨らんだ。例えば、円換算の原油価格は1年前より約1割上昇している。原発の停止に伴う火力発電所向け液化天然ガス(LNG)の輸入増も赤字額を押し上げた。一方の輸出も米国向けの回復や東南アジア諸国連合(ASEAN)向けの好調で、全体では6.7%増の4兆6461億円と伸びたが、赤字の拡大には到底、追いつかなかった。このほか、旅行や輸送などの動向を示すサービス収支は1802億円の赤字、企業などが海外投資から受け取る利子や配当などの所得収支の黒字は6.8%増えて1兆2284億円と堅調だった。
経常収支は2012年通年で、黒字額が4兆7036億円。LNG輸入急増を主因に、前年より半減し、1985年以降では過去最少を更新したが、黒字は確保している。これが、年末からは、アベノミクスに伴う円安で輸入が膨らみ、貿易赤字を拡大し、経常収支を赤字に転落させているわけだ。
もちろん、経常赤字が必ずしも悪いというわけではない。赤字によって、直ちに経済成長がマイナスになるとか、失業率が上昇するといった国民経済的なマイナスが起きるわけではない。ただ、問題は国内の資金不足の心配だ。経常赤字で国内の資金が海外に流出しているということで、巨額の財政赤字を抱える国にとって、赤字の補てんを海外に依存せざるを得なくなる。もちろん、現在は基本的に国内資金で財政赤字を賄えているからいいが、高齢化の進展で貯蓄が減っていけば、国内資金だけで賄えなくなり、日本の国債の国際的な信認が問われ、海外の資金を吸収できなければ財政に穴が開き、具体的には国債金利の高騰という局面がおとずれるかもしれない。ただし、それはまだ先の話。
円安で輸出がそれほど増えるとは限らない?
それ以前の問題として、海外への直接投資で得られる収益、つまり所得収支が、貿易収支の動向と並んで、大きなポイントになる。その収支の前提になる日本企業による海外企業のM&A(合併・買収)は2012年1年間で515件と、前年から13.2%増え、1990年の463件を上回って22年ぶりに過去最高を更新した。金額も、円高のため円換算が目減りしたにもかかわらず、同14.9%増の7兆3389億円と、過去3番目に多かった。国内景気の低迷の中、円高を背景に海外投資への企業の意欲の高まりを示している。
この海外投資が円安で失速する懸念もある一方、海外から日本に戻ってくる所得収支の黒字は円安により円換算では膨らむプラス面もある。「直接投資の進展で、海外に生産拠点をかなり移していることもあって、経済の教科書に書いてあるように、円安で輸出がそれほど増えるとは限らない」(官庁エコノミスト)との指摘がある一方、「数カ月先には輸出数量増加もあって、海外、特に米国の景気回復にも支えられて、貿易赤字は緩やかながら減っていく」(民間シンクタンク)との見方もある。
輸出減少を一時的と見るか、構造的と見るかで、経常収支の見通しへの見解も別れるが、その動向は、アベノミクスの成否を含め、日本経済の行方を見極める上で目を離せない。