カイコを利用して予防効果の高いインフルエンザワクチンを、今より安価に製造する技術を沖縄県名護市の生物資源研究所 (根路銘国昭所長) が開発した。研究は沖縄県の援助を受けており、2013年3月12日、那覇市で開かれた「おきなわ新産業創出投資事業」の研究成果発表会でウイルス研究者でもある根路銘所長が報告した。
沖縄の研究所がインドネシアの大学と共同開発
毒性が格段に強い新型インフルエンザ--その基になるものと考えられる高病原性トリインフルエンザ(H5N1型)が恐れられている。
ウイルスが流行すれば有効なワクチンが早期に生産・提供される必要があるが、鶏卵を利用する現在の製造法では量産に限界があり、コストも高い。そこで同研究所はカイコを利用する製造法に取り組んできた。
感染に関係するHたんぱくから病原性を除くとワクチンたんぱくに使える。同研究所は日本で見つかった高病原性ウイルスのHたんぱく遺伝子から病原性に関する遺伝子を除き、増殖力を高める遺伝子をつないだ合成遺伝子を作り、カイコに感染するウイルスの遺伝子に組み入れた。
このウイルスをカイコに感染させた遺伝子改変カイコは体内に大量のワクチン用たんぱくを作る。まゆの中のサナギをつぶして精製する方法で、鶏卵で作るより数百倍もの活性の高いワクチン用たんぱくが製造できた。
同研究所は高病原性トリインフルエンザが散発しているインドネシアのボゴール農業大学と共同研究を開始、昨年11月にはこの方法で作った鶏用のワクチンたんぱくが有効なことを確認、今年6月から本格的なワクチン製造をめざす。同じ方法でのヒトワクチン開発も考慮中だ。
群馬県藤岡市の試薬会社「免疫生物研究所」は、試薬のたんぱくを体内で作り、それをまゆ糸の中に吐き出す遺伝子改変カイコを開発した。両研究所はそれぞれの技術を組み合わせ、まゆ糸にインフルエンザワクチン用たんぱくを吐き出す遺伝子改変カイコの開発にすでに成功している。根路銘所長は、「まゆ糸のたんぱくは水で洗えば回収でき、ほとんど精製の必要もないほどだ。さらに安くワクチンの供給が可能になる」とコメントした。
(医療ジャーナリスト 田辺功)