西武グループに対し、秩父線などの廃止やライオンズ球団の売却を求める提案が筆頭株主の米投資ファンドから出されたと報じられた。ファンド側は、具体的な提案を否定しているが、地元からは戸惑いの声が出ている。
埼玉県内を走る西武秩父線は、2013年3月16日の東急・渋谷駅の相互乗り入れを受け、横浜方面と直通運転になった。
西武は、米投資ファンド提案に難色示す?
そのことをアピールする西武鉄道初のテレビCMも流され、秩父などでの観光客増加が期待されている。
秩父線の廃止提案が報じられたのは、そんな話題が冷めやらないうちのことだ。
報道によると、米投資ファンド「サーベラス」は、西武ホールディングスに対し、同様に不採算路線とされる西武多摩川線・山口線も廃止を求めている。さらに、埼玉に本拠のある西武ライオンズの売却まで求めていると一部で報じられた。こうした提案は、西武ホールディングスが再上場する前にサーベラスが求めたリストラ策だというのだ。
これに対し、秩父線沿線などの地元からは、生活の足を失うといった戸惑いの声が相次いでいる模様だ。ネット上では、企業が採算無視を続けることはできないと理解する向きはあるものの、鉄道は大事なインフラであり、球団にも大勢のファンがいるとして、提案を疑問視する声も多い。
サーベラス側は11日、最大4%の株を買い増す株式公開買い付け(TOB)をすると発表している。株式の3分の1を超え、議決権をも持てる出資割合だ。これに対し、西武側は19日、公共性が高いとして秩父線廃止などに難色を示し、TOBに反対する方針を明らかにしたと報じられた。
短期的に株価を上げ、売り抜けて利益を得る手法は、よくハゲタカファンドと呼ばれる。サーベラス側にそんな意図があるのかは不明だが、なぜインフラなどにまで踏み込んだ提案をしたのか。
ファンド側は廃止・売却の提案を否定するが…
サーベラスのコミュニケーション担当者は、取材に対し、秩父線などの廃止や球団売却を求めたことを否定した。
「数十ある経営上の検討課題のうち、鉄道路線や球団運営はどうするのかを、テーマとして挙げただけです。こちらが決めることはできませんので、経営陣とこれから議論しようということです。細かい表現までは存じ上げていませんが、経営効率を上げるうえで様々なオプションがあるということになります」
TOBについても、西武ホールディングスの議決権を持ったり買収したりする目的を否定した。
「追加の投資をして、コミットメントを強めようというだけです。取締役の派遣を提案したのも、経営ガバナンスを改善するためでした。法制度上、TOBの形を取らざるをえなかったということで、会社をコントロールしようということではありません」
一方、西武ホールディングスの広報部では、「一株主について、基本的には個別のやり取りはお話ししていません」とコメントしている。
国際金融アナリストの小田切尚登さんは、サーベラスの狙いについてこうみる。
「外資系ファンドには、短期的な利益を目指す例も多いので注意が必要ですが、長期的な利益を考えて言っているケースももちろんあります。株式の持ち合いが多い日本では、お互いに依存してあまり厳しいことを言わず、なあなあになる傾向も見られます。しかし、外資は、大元の投資家がいますので、市場原理を考えて企業にプレッシャーをかける場合も多いです」
西武側に対しては、こう指摘する。
「鉄道なら、バスでの代替策を考えるなどもっと合理化を、球団なら、ルーズな経営感覚を正すことを、それぞれ求められているんだと思います。経営者は、株主の要求が厳しいことを念頭に置かなければなりません。ダメならはねつければいいわけですが、経営者自身がきちんと説明しなければ、提案を実行することも仕方がないということになってしまうわけですよ」