シンガポールの「建国の父」とも言われ、知日派としても知られるリー・クアンユー元首相が2013年3月20日、現地の金融機関が開いたイベントで、人口減少が続く社会に警鐘を鳴らした。その中で、日本の現状を「移民を拒めば、すべてが無になる」と痛烈に批判。外国人労働者を受け入れて人口を増やす成長戦略の必要性を強調した。
2030年までに人口を1.3倍の690万人に増やす
シンガポールの2012年の合計特殊出生率(速報値)は1.2と日本並みに低く、2025年には人口の減少が始まる見通しだ。高齢化も進行し、2050年には50歳以上が人口の半分を占めることになる。このため、シンガポール政府は、労働力の減少が経済的活力を削ぐと危機感を強めている。
そこで、13年2月にシンガポールの国会が承認した「人口白書」では、現在は530万人の人口を2030年までに1.3倍の690万人に増やす計画を打ち出している。白書によると、毎年永住者を3万人受け入れ、永住者人口は50~60万人程度を維持する。そのうち、毎年1万5000人~2万5000人程度に国籍を与える。そうすると、シンガポール国民と永住者を合わせると、2030年には440万人にまで増える見通しだ。
大きく増えるのが、限られた期間しかシンガポールへの滞在を許可されない期間労働者。今は150万人だが、2030年までには250万人にまで増やす。この人口白書が掲げる人口の増加幅の多くの部分を、この期間労働者が担っている形だ。
今と同じ政策続けると「おしまいが来る」
白書の内容が発表されてからリー氏が人口問題について発言するのは、このイベントが初めてで、
「あと20年で人口が半減し、それでも同じ政策を続けるのであれば、さらに人口は半分に。ついには、おしまいが来る」
と、人口減少に対する危機感をあらわにした。また、移民引き受けに消極的な日本を
「国を運営するためには、国民がいなければならないし、若者が経済を動かせるようにして、これらの商品や美味しい料理を買えるようにしなければならない。これをせず、日本みたいに移民を拒むならば、すべてが無になってしまう。こういう事態が来る前に彼らは政策を変えると思う」
と批判。中国の一人っ子政策についても「間違った方向に向かっている」と疑問を呈した。
大量の移民を受け入れることについては、国民からも「仕事が奪われる」と批判が根強い。この点について、リー氏は「確かな品質管理」を行うと主張。
「彼ら(他ASEAN諸国)は進歩するだろうが、一人あたりの進歩を見れば、(シンガポールとの)差は大きい。我々には移民の品質管理の面で一日の長があり、その結果として優秀なインド人、優秀な中国人、優秀な白人がいる。人口が増えることは、才能(タレント)が増えることだ」
と、優秀な人材を選んで移民として迎えることに自信を見せた。