民主党政権が掲げた「原発ゼロ」方針に気をもんでいるのが、同盟国の米国だ。日本は日米原子力協定で、核燃料の再処理について米国から事実上「特別待遇」を受けているが、原発や核燃料サイクルがなくなってしまえば、プルトニウムなどの核物質が、使うあてもなく日本国内に残留することになってしまう。核拡散を防ぎたい米国からすれば、これは看過できない事態で、すでに強い懸念を示してもいる。
だが、どういう訳か、国会ではその存在について議論されることは、ほとんどないと言ってもいい。
核保有国以外で唯一核燃料サイクル持てる「特権」
協定は1955年に成立し、核物質の再処理と第三国への移転などについて定めている。88年に現行協定が発効し、使用済み核燃料の再処理について包括的同意方式を導入。日本政府からすれば米国から個別に同意を得る必要がなく、再処理の自由度が大幅に増した。核保有国以外で米国が核燃料サイクルを持つことを認めているのは日本だけだ。協定は30年間有効で、次の改訂は2018年。まだ5年あるが、1988年の交渉に時間がかかったこともあって、時間的猶予はあまりないとの指摘もある。
そこに出てきた民主党政権の「2030年代までに原発稼働ゼロ」方針だ。ここでは、核燃料サイクルは継続するとしているが、再処理した燃料の使い道がないという点には変わりない。日本は国内に9.3トンのプルトニウムを保有し、国外に再処理を委託している分を含めると、さらに多い。この行方が米国の関心事だ。
実際に、エネルギー省のダニエル・ポネマン副長官は、2012年9月11日(米国東部時間)にワシントンで民主党の前原誠司政調会長(当時)と会談した際、この点について強い懸念を伝えている。
石破幹事長は「原発ゼロ」が日米関係損なうことを指摘
この点、自民党のスタンスは明確だ。石破茂幹事長は、9月19日に東京・有楽町の日本外国特派員協会で行われた総裁選候補者討論会で、
「日米原子力協定から目をそらしていないか。このことを忘れてはならない。我が国が平和的に原子力を利用するということが、どういう意味なのか。日米同盟にとって、どういう意味を持つものなのかということをしっかり認識し、合衆国に説明することが必要であり、国民にも、それを説明しなければならない」
とも述べ、「原発ゼロ」方針が日米同盟を損なうとの見方を示しながら、訪米時の前原氏の対応を間接的に批判した。発言の真意を聞こうと自民党の幹事長室に取材を申し込んだが、幹事長という立場で見解を示すのは困難だとして実現しなかった。
関電出身・民主議員「原子力路線を放棄してしまうことが本当にいいのだろうか」
実は、この日米原子力協定、共産党が過去の政府のエネルギー政策を批判するときに「日米原子力協定と電源3法の下で安全神話を作り上げ~」といった枕詞として使う時以外は、震災後もほとんど国会では議論されてこなかった。数少ない例外が、「原発稼働ゼロ」が打ち出される1年ほど前の、11年8月25日の参院経済産業委員会でのやりとりだ。藤原正司参院議員(比例、関西電力労組出身)が、高速増殖炉(FBR)サイクルの活用について質問する中で、
「天然ウランは0.7%しか今使えない。99.3%はごみ。これがごみなのか燃料なのかということで、我が国の今後のエネルギー需給、根本的に変わってしまう」
と、天然ウランには核分裂を起こすウラン235が0.7%しか含まれず、濃縮して原発の燃料に使用していることを指摘。その上で、
「我が国の日米原子力協定は、2030年まで核兵器を持たざる我が国に対して濃縮と再処理を認めている唯一の国。これは国際原子力機関(IAEA)でもそう。この意味は、日本がどういうふうに世界から思われているかということと大変大きな意味を持つ。こういう中で、我が国が原子力の、もちろん安全を前提としながらも、原子力路線を放棄してしまうことが本当にいいのだろうかということを、こういう安全保障の目線からも是非お考えいただきたい」
と原子力協定のあり方について触れた。
これに対して海江田万里経産相(当時)は、
「(FBR)サイクルを通じてそうした安全保障が確立をされるべきもの」
と、あいまいな返答をするにとどまった。