日本航空の名誉会長、稲盛和夫氏(京セラ名誉会長)が、2013年3月末で日航の取締役を退任する。名誉会長の職は引き続き務めるが、今後は経営陣らに対する助言などの限定的な業務に限る方針とされる。
公的支援を受けた日航に対し「全日本空輸などとの競争上問題」との批判が自民党などから強まり、一方で戦略機材と位置づける最新鋭中型旅客機「ボーイング787」の運航停止が続く。そうした厳しい環境の中で、再建をけん引した「支柱」を失うことは、日航にとって痛手だ。
コスト意識を根付かせた
稲盛氏は、日航が経営破綻した翌月の2010年2月、当時の民主党政権から強く請われ、会長に就いた。当初から経営への関与については「3年がめど」と話しており、今回の取締役退任の決断はほぼ「公約」通りといえる。4月以降は経営に直接関わらず、月数回程度の出社にとどめる見通しだ。
稲盛氏が経営の中枢から退いた後の日航に対しては、懸念が少なくない。そもそも「日航の再建は稲盛氏の存在なくしてはあり得ない」(航空業界関係者)との見方は業界の定説だ。稲盛氏の功績の一つが、京セラから持ち込んだ「部門別採算制度」の導入。部門ごとにコストと利益を明確にするシステムで、破綻前の日航に欠落していたコスト意識を根付かせ、利益の向上に大きく貢献したとされる。
経営会議で甘さを示す役員を罵倒するなど、稲盛氏の言動は一時、日航社内で強い反感を買った。だが、部門別採算制度などで実際に業績が上向いていくと、稲盛氏の経営者としての理念に心酔する役員や社員が増加。今や日航社内から「精神的な支柱」(関係者)との声も出る。
官僚体質復活の懸念
植木義晴社長自身も昨年末の記者会見で、稲盛氏の処遇に関し「一切関係を断つということではなく、アドバイスをいただけるような関係を保ちたい」と述べ、何らかの形で日航にとどまってほしいとの考えを示していた。
今、日航を取り巻く環境は厳しさを増している。日航再建は「民主党案件」の代表例とされており、自民政権下では圧力が増しているのが実態だ。2月の参院予算委員会では、日航が多額の法人税減免措置を得ていることや、外国人株主に配当することなどが問題として取り上げられ、安倍晋三首相が日航再建を検証する必要性に言及した。
一方、ボーイング787の運航再開は長期化しており、収益への影響も顕在化しつつある。「787は我々の計画の中枢にすえる飛行機」(植木社長)としているだけに、787の今後の動向次第では経営の一部が揺るぎかねない。
一方、業界関係者からは「稲盛氏の影が薄くなれば、官僚体質など従来の日航の悪い面が再び出てくるのではないか」との見方もある。日航の真の再建は稲盛氏が退いた後こそ試されるといえそうだ。