石炭火力は「CO2削減には非常にネガティブな発電装置」
原発事故で財務体質が悪化した東電は、自社単独での発電所新設を断念。実質国有化を受けて2012年春策定した「総合特別事業計画」に、入札による外部からの電源購入計画を盛り込んでおり、建設費などの初期投資を抑える考えだ。特に、燃料コストの安さを重視して石炭火力を想定している。これは、13年4月と見込んでいた柏崎刈羽原発再稼働の見通しが全く立たず、電気料金の再値上げの検討も迫られているとあって、低コストの石炭火力は必須の状況だからだ。
電力市場自由化の旗を振る経産省にとっても、電力の安定供給はもちろん、発送電分離もにらみ、異業種参入を促す好機という位置づけだ。
ところが環境省がこれ待ったをかけた。発電コストは石炭火力が1キロワット時あたり9.5~9.7円と安価だが二酸化炭素(CO2)排出量は多いのに対し、液化天然ガス(LNG)火力は同11.5~11.9円(設備利用率50%)で石炭より高コストだがCO2排出量は少ない。このため、旧型の石炭火力を最新鋭石炭火力に更新するのは良いが、新鋭であっても石炭火力の新増設は認めないというのが同省の基本姿勢で、「(石炭火力は)わが省のレゾンデートル(存在意義)たるCO2削減には非常にネガティブな発電装置だ」「これから決める(削減)数値目標が大変厳しいものになる。それでいいのか」(1月15日、石原伸晃環境相)として入札延期を働きかけ、経産省と対立した。環境省に入札を中止させる権限はないが、環境影響評価(アセスメント)に意見できるため、過去にも石炭火力の建設計画を白紙に追い込んだ実績がある。
水面下で両省は調整に動き、2月7日、急遽、両省の関係局長会合が開かれ、12日には両省副大臣らが最新鋭石炭火力を視察するなど、歩み寄る努力を続けた。その結果、環境省が東電の「入札」までは認める形で「譲歩」したのが現時点の状況だが、展望が開けたわけではない。実際、東電が2月15日に本店で開いた入札説明会には、商社や重電メーカーなど約50社が出席し、一見、盛況だったが、会場は熱気には程遠い雰囲気。入札条件は、上限価格が1キロワット時=9.53円と、石炭火力水準で、ガス会社からは「入札条件をクリアできそうにない」との声が漏れる一方、石炭火力に強い商社なども「環境省との調整が終わらないと札は入れられない」と、消極姿勢を崩さず、5月の締め切りまでに入札企業が出ないとの見方も出ている。
ことは東電の火力発電所一つの話では済まない。原発の再稼働の見通しが立たない中で、「低コストの石炭火力を活用するのか、CO2削減を優先するのか」という今回の争いだが、自民党政権は原発を再稼働させる方針で、原発が動くなら火力発電所を新設する必要はなくなる。石原環境相発言は、原発再稼働へ誘導するのが目的との見方すら出ている。