台湾戦、土壇場での盗塁に味をしめた?
この場面は4番打者にすべてをまかせるところである。おそらく多くの野球人はそう考えているだろう。阿部の打撃に信用がおけない、という理由なら分からないでもないのだが……。
行けたら行け、とのサインはリスクが大きい。今回の場合、井端は無理と判断し、内川は走った。1つのサインで2人の走者が正反対のプレーをしたことが墓穴を掘った結果となった。相手の捕手は大リーグナンバー1の強肩で知られるモリーナということを忘れたのだろうか。
なぜ奇策を用いたのか。台湾戦で1点を追う9回二死から一塁走者の鳥谷が二盗。井端が同点打を放ち、延長で勝ったことがあったと思う。そのときも鳥谷に「行けたら行け」と指示している。この成功例が同じ劣勢の場面を攻勢に転じようとしたのかもしれない。
日本がそういう戦いで勝ち上がってきたことは相手も知っている。データを利用するのは日本だけではない。プエルトリコが最も嫌がるのは阿部に自由に打たせてくることである。それなのにアウトの可能性が出る盗塁を走者に求めた日本は「策におぼれた」としかいいようがないし、奇策というより愚策といえるかもしれない。
「選手はよくやった」と山本監督は言い、テレビのスポーツニュースでも健闘をたたえた。しかし、米国に次ぐ野球大国の日本がそれで終わらせてはならない。あのプレーは球史に残るボーンヘッドなのだから。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)