東京大学の2013年度前期日程入試の合格発表を受け、週刊誌が続々と高校別合格者数を掲載している。
ランキングに大きな「確変」はなかったが、ひそかに存在感を示しはじめた学校がある。それは、東京の公立中高一貫校だ。ほとんど「新設校」ながら、5名の東大合格者を出した学校もある。J-CASTニュースでは、その取り組みについて学校に話を聞いた。
1期生から5名の東大合格者「白鴎ショック」
中高一貫校は現在11校(都立10校、区立1校)あるが、週刊朝日(2013年3月22日号)の「国公立前期合格者高校ランキング」によると、うち5校が、2名以上の東大合格者を出していた。
具体的には、都立白鴎高校(5名)、都立桜修館中等教育学校(5名)、都立小石川中等教育学校(5名)、都立両国高校(5名)、千代田区立九段中等教育学校(2名)となっている。都内の中高一貫校は、既存の高校に附属中学を設置し、高校入試は継続する「併設型」と、高校募集をおこなわず完全中高一貫教育をおこなう「中等教育学校」に分かれている。
東京都でこのこころみがはじまったのは2005年で、白鴎高校が附属中学を設置、4月に1期生が入学した。2006年には両国などが附属中学を設置、九段中教、小石川中教、桜修館中教などが開校した。
効果はたちどころにあらわれた。11年度入試で白鴎の「中高一貫」1期生から5名の東大合格者出て、教育業界では「白鴎ショック」と呼ばれたという。12年度入試でもこれらの学校は健闘、4名前後の合格者を出し、13年度入試でも順調に数を伸ばしている。
「新設校」で1期から東大合格者が出るのは異例の事態だ。いったいどんな秘密があるのか。
中3生全員で東大訪問、「東大は遠くない」と感じさせる
「適性検査のランキングでは高くないですが、中で能力を伸ばす学校です」
都立白鴎高校の副校長はこう胸を張る。同校は偏差値では確かに先の6校中では最下位。ところが東大合格者数となるとトップだ。公立中高一貫では入学試験として、考える力をはかる「適性検査」を課す。
「入学から2年は独立の校舎で、日本の伝統と文化を学び、礼法や服装など、基本的な生活習慣・学習習慣を身につけます。2年生で『最上級学年』の自覚をもった上で、3~6年生の過ごす校舎に進んで、東大などの難関大学を目指す先輩の姿を見る。中高一貫では中2~3が中だるみの時期と言われますが、ゆっくりするヒマがないわけです」
選抜コースの設置はなく、玉石混合。「中3の時に全員で東大を訪問します。白鴎のある台東区浅草と東大のある文京区本郷が距離的にも近いことを知って、『東大は遠くない』と感じてもらえれば」と話す。
また、学費が安くあがるのも魅力だ。夏休みなど長期休暇中には講習を実施するほか、教員等が質問に答え、予備校に行かなくても東大に合格できるだけのサポートを用意する。「(教員たちは)倒れるかなってくらい忙しい」と笑う。
ただ、こうした取り組みはあくまでキャリア教育の一環だという。生徒に国公立志望が多いため、ニーズに応えている格好だ。
講習等の設置は、すでに成果の出ている都立西や日比谷といった進学指導重点校にならい、他の中高一貫校でもおこなわれている。さらに、2期生から2名の東大合格者が出た九段中教の副校長は、12年度に「入試が近くなるとメンタルがまいってしまう生徒がいる」という経験を踏まえ、13年度はメンタルケアを導入したと話す。このほか、入試に向けた進路指導を強化するなど、毎年改善に努めているそうだ。
こうしたきめ細かく手厚いケアが安価で受けられるとなれば、進学指導を売りにする私立の中堅中高一貫校にとっては脅威かもしれない。
(2013年3月17日追記)