海外投資家の国内不動産への投資熱が高まってきた。なかでも、台湾やシンガポールなどアジアの個人投資家が、東京都心のマンションを購入する動きが広がっているという。
円安が進んで従来以上に物件価格に割安感が出ていることが背景にあり、アベノミクス効果が現物不動産にも波及しつつあるようだ。
円安基調の長期化で「そろそろ買いどき」
「少なくない海外投資家も、円安を待っていたということですね」――。東京カンテイ市場調査部の井出武主任研究員は、そうみている。
単純に2割円安になれば、日本の不動産価格も2割安くなるのだから、「円安効果」は大きい。東日本大震災の影響はあったが、「もともと日本の不動産は、耐震性もしっかりしていますし、物件への信頼度が高い」(井出氏)という。
みずほ証券の石澤卓志チーフ不動産アナリストも、「都心の不動産物件は実需と投資の両面、つまりセカンドハウスとしてもよし、賃貸でもよしと重宝します。そのため、アジアの富裕層には人気があります」と話す。
石澤氏によると、中国人投資家は「外貨の持ち出し制限があることや、日中の外交問題の影響から、都心の大型物件への投資は難しくなっています」が、台湾やシンガポール、韓国などの個人投資家も前向き、という。
前出の東京カンテイ、井出氏は「そろそろ買いどき、と考えている海外投資家は少なくない」と指摘する。2007年のミニバブルのときに雰囲気が似てきたとし、「安倍政権による金融緩和がしばらく継続されることで円安基調も長期化するとみて、投資のタイミングを見計らっている状況ではないでしょうか」と話している。
バブル経済の崩壊以降、東京都心の不動産は低位安定で割安感があった。投資機会を探っていた海外投資家の背中を、円安が押したというわけだ。
広がる物件価格の「底打ち感」
いま、東京都心の不動産が注目されているのは、円安効果で価格が割安なことに加えて、物件価格の「底打ち感」の広がりがある。
不動産調査の東京カンテイによると、2013年2月の首都圏分譲マンションの1平方メートルあたりの賃料は平均2534円(前月比0.0%)と、12年12月以降は横ばい基調で、落ち着いた動きとなっている。東京23区は3068円で前月比0.2%減、横浜市も2137円で同2.6%減と「12年12月の上昇以来、調整が続いています」(市場調査部・井出武氏)という。
その一方で、供給物件は増えていない。みずほ証券の石澤卓志氏は、「昨年後半からは景気悪化の影響で、ユーザーが(不動産を)買えない状況が続いていました。さらに消費増税の影響などを見極めたいとの思いもあって、デベロッパーは供給に慎重になっています」と指摘する。
不動産経済研究所が3月14日に発表した2月の首都圏マンション市場動向によると、発売戸数は3491戸で前年同月に比べ10.9%減った。前年を下回るのは6か月連続。ただ、売れ行きは堅調で、契約率は76.4%と販売の好不調を分ける70%を回復している。前月比7.2ポイント増、前年同月に比べると1.1ポイント増と急回復している。
いまはまだ、株高や給与・所得の増加期待などの「ムードだけが先行して売れている」状態。前出の石澤氏、井出氏ともに、「住宅ローン控除などの減税措置が固まって、実行されてくると、国内の購入意欲は高まってくるのでしょう」とみている。