国会議員が本会議や委員会で質問する時は、前日までに、答弁者に対して内容を通告することになっている。だが、この答弁の準備が霞ヶ関の官僚にとって悩みの種だ。遅くまで質問項目を通告してこない議員がいるため、どの省庁が答弁を作成するかも分からないまま、多くの省庁の官僚が無駄に夜遅くまで足止めされる結果になっている。
官僚の側もさすがに我慢ならないようで、通告が遅れた議員のブログには、「早く質問を出してください!官僚にも家庭があります」といった恨み節ともとれるコメントが書き込まれ、炎上気味になるケースも出ている。
「オール霞ヶ関であなたの質問が出てくるのをずっと待っています」
2013年3月12日夕方に衆院予算委員会で質問に立っていたのは、みんなの党の杉本和巳衆院議員(比例東海)。約20分間にわたって、原発警備への自衛隊の出動、北方領土の「ビザなし交流」、「1票の格差」について質問した。安倍晋三首相や小野寺五典防衛相が答弁し、平穏なやり取りに見えたが、杉本議員は何故か最後に
「すみません、通告していた大臣の方々、ご迷惑をかけました。申し訳ございませんでした」
と謝罪して質問を終えた。この背景には、杉本議員の質問の通告が大幅に遅れ、霞ヶ関の官僚に大きな負担をかけたことがあるようだ。杉本議員のブログのコメント欄がそれを裏付けている。
杉本議員は3月8日の時点で、質問に立つ予定をブログに書いていた。質問前日の3月11日夜、コメント欄には相次いで批判コメントが寄せられた。20時46分には、
「こんなブログ書いてないでとっとと質問出して。税金の無駄遣いと闘いますとか言ってるけど、オール霞ヶ関であなたの質問が出てくるのをずっと待っています。あなただけですよ全然出てこないの」
と怒りの声。21時13分には、「某省」を名乗る人が
「早く質問を出してください!官僚にも家庭があります。あなたのために、家に帰れない役人が何百人といるのです」
と悲鳴にも近い書き込みをした。21時45分には、「役人です」と名乗る人が、
「無理やり絞り出さないと出ない質問なんて、パフォーマンスでしかない。霞が関中に無駄な待機を発生させて、それが政治主導なのですか」
と怒りをぶつけた。
17時までに質問を出すように求める委員長もいた
自民党の河野太郎衆院議員(神奈川15区)のブログによると、自らが外務委員長を務めていた時は前日の17時までに質問通告するように求めていたという。河野議員の方針と比べると、今回の21時頃になっても質問が出て来ない事態がいかに異常か分かる。
また、河野議員は、野党に転落していた10年3月12日の外務委員会では、タクシー帰りの官僚が運転手からビールや商品券などの便宜供与を受ける、いわゆる「居酒屋タクシー」問題について、
「ああしたことが起こるのは、国会での質問通告が遅いために、無駄な国会待機を大勢の霞が関の官僚諸君が強いられているというのが最大の問題」
とも指摘している。
もちろん、野党の側にも言い分はある。蓮舫・元行政刷新相(参院東京選挙区)は06年6月の野党時代に、ウェブ上のコラムで、
「質問者は、質問ぎりぎりの時間まで情報を入手し、質問で反映されるような努力を行います。また、前もって審議される法案内容がわかっていたとしても、質問前日までに関係者の声を聞いたり、独自の取材の結果を質問に反映させるものです」
と、質問通告をできるだけ遅くしたい理由をつづっている。ただ、野党にとっても質問通告は重要で、蓮舫議員は
「質問通告を行わないと、実際の質問時に、『通告を受けていませんので、今、お答えできません』と大臣が応えないことが多々あるので、必ず、前日までには通告を行うものです」
とも書いている。
ツイッターでは「通告到着時間投稿サイト」の呼びかけも
状況改善に向けた具体的な取り組みも始まっている。例えば、13年3月13日夜には、京都大学客員准教授の瀧本哲史さんが、
「国会議員の質問通告が遅いのが国会の非効率、霞ヶ関の非効率、長時間労働の原因だよね。ということで、これを『見える化』したいので、『通告到着時間投稿サイト』を作ろうと思うのだけれども、興味がある人はリツイートしてね」
とツイッターで呼びかけた。リツイート(転送、拡散)された数が多ければ、霞ヶ関の「中の人」と協力してサイトの立ちあげに着手するとしており、すでに2500回以上リツイートされている。
瀧本さんは、ツイッターを活用したNHKの深夜ニュース番組「NEWS WEB 24」にレギュラー出演(火曜日)しており、別の日に出演している社会学者の古市憲寿さん(月曜日)やジャーナリストの津田大介さん(水曜日)がリツイートしたことで、拡散の速度が増したとみられる。