「あれ、ローマ『法王』と『教皇』って、どっちが正しいんだっけ?」――2013年3月13日、アルゼンチン出身のホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿(76)が就任するニュースを聞いて、そんな疑問を持った人は少なくないはずだ。
さっそく確かめてみると、政府機関や報道はいずれも「法王」を使っている。ところがカトリック教会では、「教皇という名称を使ってください」と呼びかけている。いったいどういうことなのか。
政府・新聞・テレビは原則「法王」
まず日本政府だが、こちらは1942年の外交関係樹立以来、一貫して「法王」を採用している。たとえば2013年2月12日、安倍晋三首相は退位を発表したベネディクト16世にメッセージを送っているが、ここでは「ローマ法王ベネディクト16世台下」との表記だ。東京・千代田区にあるバチカンの大使館にも、「ローマ法王庁大使館」との表札がかかる。
主要マスコミも、大半が法王派だ。新聞各紙を始め、NHK・在京キー局などはいずれも法王と呼んでいる。固有名詞を引用する際などには「教皇」と書く例もあるようだが、基本的には法王一色と言っていい。
しかし、日本のカトリック教会を統括する宗教法人カトリック中央協議会は、強硬に「教皇」が正しいと主張する。協議会のウェブサイトには、わざわざそのことを説明するためのページが設けられている。
これによれば協議会では1981年、ヨハネ・パウロ2世の来日にあわせ、これまで混乱していた表記を「教皇」に統一することに正式に決めた。
「『教える』という字のほうが、教皇の職務をよく表わすから」
というのがその理由だ。
そこで、外務省にも呼び方を変えてもらうよう申し入れたのだが、「日本政府に登録した国名は、実際に政変が起きて国名が変わるなどしない限り、変更できない」という理由で断られてしまった。マスコミ各社にもたびたび教皇使用を依頼したが、こちらも実現しなかったという。
「こうしていまでも『法王』と『教皇』が混用されているのです。皆様には、『教皇』を使っていただくよう、お願いする次第です」(協議会ウェブページより)
ただし協議会の活動の甲斐あってか「教皇」もかなり一般化し、たとえば高校世界史教科書は現在、ほぼすべてが教皇を採用している。