「ナチス禁止の法律がなかったら、ナチスはイデオロギーが受け入れられ選挙で成功する可能性がかなり高い」――オーストリアの世論調査機関が実施した調査によると、回答した国民の54%がこう考えていることがわかった。
第二次世界大戦で人類史上最悪のジェノサイド・ホロコーストをおこなったナチス・ドイツへの追及が不十分ではないかと、海外メディアの関心を呼んでいる。
「強い指導者が必要」と回答、61%に
調査結果は墺紙シュタンダルトが現地時間2013年3月8日、伝えた。
ナチス・ドイツによるオーストリア併合75年に合わせ、16歳以上の有権者502人を対象に実施された。ヒトラーの生地でもあるオーストリアでは、1938年3月12日にナチス・ドイツによる進駐が開始。翌4月に併合が国民投票にかけられ、100%近い賛成を得たとされる。
それによると、ナチスのヒトラー支配下の時代について「全てが悪かったわけではない」と答えた人は42%に上った。また、「オーストリアに強い指導者が必要」と回答したのは年齢の高い層を中心に61%に達した。指導者について2008年の似たような質問では約20%だった。
また、ユダヤ人の犠牲者や遺族への補償について、57%は完全に済んだと考えていて、オーストリアはナチス時代の過去と十分に向き合っていると答えた人も61%に達した。
オーストリアはナチズムを掲げる組織の設立や支援のほか、ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の否定・正当化を法律で禁じている。
一方で、イスラエル紙によると、オーストリアはみずからを「ナチス政権の被害者」ととらえており、アメリカでホロコースト関連資料の展示をおこなうサイモン・ウィーゼンタール・センターは、「ナチスの戦争犯罪への追及がもっとも低い国」の一つに位置づけているという。
調査結果はまた、反ユダヤ的な迫害がオーストリアで再び起こるかもしれないと考えている人が39パーセントいることも示している。
「私たちが歴史から学んだことは、私たちが歴史から何も学ばないということ」
こうした調査結果については、イスラエル紙のほか、独誌シュテルン(電子版)が「ショック」、英紙インディペンデントは「忌々しい」「不穏な」と書いたほか、仏レクスプレス紙が「オーストリア人の大部分はナチスが再選できると考えている」と伝えた。
また、ウィーン・フィルに戦前、多くのナチ党員がいたが、戦後、わずかしか解雇されなかったなどの事実が、最近になって公表されたとこともあり、国内外のメディアでオーストリアの戦後処理への風当たりが強まっている。
英語版のツイッターを見ると、この件に関して、「不安になるひとも多いだろうね」「オーストリアの友人たち、本気でこんなめちゃくちゃを言っているの?」「神様、どうか私たちがもう二度と過ちをおかしませんように」「私たちが歴史から学んだことは、私たちが歴史から何も学ばないということ」と言った投稿が目だっている。
また、日本人の中にも、他人事ではないと投稿している人もいる。
「オーストリアでは今日、4割がナチス政権下の生活は『そこまで悪くなかった』、6割が『強い人』が政府を動かすべき、5割以上がナチス党が再び認められれば非常に高い確率で議席をとる、と信じている。どっかの国でも最近聞くような話でぞっとする…」