「原発回帰」安倍政権 再稼働の行方(1)
柏崎刈羽原発 高さ10メートル「巨大な壁」はできるが…

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   安倍晋三政権で特徴的なのが、民主党政権が掲げた「2030年代に原発稼働ゼロ」を「ゼロベースで見直す」と断言し、原発回帰の姿勢を鮮明にしていることだ。2013年2月28日の施政方針演説では「安全が確認された原発は再稼働する」とも明言している。何をもって「安全」とするのか。本当に再稼働は必要なのか。可能なのか。安全保障上の問題はないのか。再稼働をめぐる動きを、現地レポートや識者の連続インタビューでお届けする。

   初回から第3回にかけて、原発としては世界最大出力を誇るものの、運転停止が続いている東京電力の柏崎刈羽原子力発電所(新潟県柏崎市、刈羽村)の現状を追う。

ゲート、監視カメラ、フェンスは写真NG

高さ10メートルの防潮堤の建設は13年6月には終わる見通しだ
高さ10メートルの防潮堤の建設は13年6月には終わる見通しだ

   柏崎刈羽原発の敷地面積は約420万平方メートル(127万坪)で、東京ドームに換算すると約90個分だ。この広大な敷地の中に7つのプラントが設置されており、合計出力は8212メガワット。原発としては世界最大を誇る。

   だが、6号機が12年3月に定期検査(定検)入りして以降、発電所では発電が行われていない。また、2~4号機は07年7月の中越沖地震以降、運転が再開できないままの状態が続いている。再稼働を目指して着々と対策工事が進んでいるものの、再稼働への道のりは遠い。

   記者が発電所を訪れたのは、震災発生2年を目前に控えた13年3月7日。広報部のマネージャーや技術担当部長ら3人の社員が、約3時間半にわたって所内を案内した。敷地に入るゲート、監視カメラ、フェンスなどは、警備上の理由から撮影が許可されなかった。

高さ10メートルの壁を1.5キロにわたって造る

海抜35メートルの高台には電源車が配備された
海抜35メートルの高台には電源車が配備された

   津波対策の目玉とされるのが、海抜15メートルの高さまで築かれる防潮堤だ。過去に日本海で発生した地震から想定される津波の高さは3.3メートルだが、東日本大震災で福島第1原発を襲った津波の高さを念頭に置いた。7つあるプラントのうち、1~4号機が西側の柏崎市に、5~7号機が東側の刈羽村にある。1~4号機は海抜5メートルの場所にあり、高さ10メートルの鉄筋コンクリート製の壁を全長1.5キロにわたって建築中だ。基礎から地下30~50メートルの深さまで杭を打ち、基礎部分と壁は一体化させた。記者が取材した時は、まだ鉄骨がむき出しの部分があり、切れ目も見られたものの、まさに「巨大な壁」といった様相だった。工事の進捗は8割程度で、13年6月末には完成するという。

   5~7号機側の敷地は海抜12メートル。長さ1キロにわたって3メートル分を盛り土し、セメントを改良した土で固めた。すでに工事は完了していたが、盛り土の上にはフェンスが設置されているため、警備上の理由から撮影は許可されなかった。

「免震j重要棟」は10年1月に運用開始

免震重要棟。非常時には対応拠点になる
免震重要棟。非常時には対応拠点になる

   防潮堤以外にもハード面だけで震災以降に50項目以上の対策を進めており、大半が13年の上半期までには完了するという。

   例えば海抜35メートルの高台には、外部電源が失われ建屋のディーゼル発電機も使えなくなった場合に備えて、ガスタービン発電機を積んだトラックや電源車を配備。5万リットル入りの軽油タンクも3つ建設した。これで発電に必要な燃料2日分をまかなうことができ、時間を稼いでいる間にタンクローリーで外部から燃料を持ち込む段取りだ。海抜45メートルの場所には約2万平方メートルの水を貯められる池もつくった。

   プラント7つの耐震強化工事は12年9月に完了しており、福島第1原発でも活動拠点になっている「免震重要棟」は10年1月に運用が始まっている。津波やプラントの爆発でがれきが飛び散ったときのために、高台にショベルカーなどの重機も配備した。

   一連の対策には約700億円を投じているが、再稼働のめどはまったく立っていない。再稼働には、13年7月にも法制化される見通しの原子力規制委員会の新安全基準をクリアすることが必要だが、柏崎刈羽原発がこれを満たせるかが不透明だからだ。焦点になっているのは大きくふたつ。

フィルターの設置、完成のめどは立っていない

   ひとつが、活断層の問題だ。新基準では、活断層の評価対象が従来の「13万~12万年前(後期更新世)以降」から「40万年前(中期更新世)以降」にまで大幅に拡大される見通しだ。柏崎刈羽原発では、原子炉直下の断層が約24万年前以降に動いたのではないかと指摘されており、これが活断層だと判定されれば、その上にある原子炉は再稼働ができないばかりか、廃炉に追い込まれる可能性もある。東電としてはなすすべがなく、いわば「まな板の上のコイ」状態だ。

   もうひとつが、フィルターベントの問題だ。福島第1原発では格納容器内の圧力を下げるベント(排気)の装置に放射性物質を濾過する機能がなく、事前に住民を避難させる関係から作業に手間取ったとの指摘が根強い。このため、新基準ではフィルター付きベント装置の設置を求められる見通しだ。原子炉建屋の隣にフィルター装置を建設して、建屋の排気を濾過した上で排出する。ところが、フィルターの設置工事は13年1月に始まったばかりで、完成のめどは立っていない。建設場所はすでに決定しており、基礎部分の工事は始まっているというが、東電の広報担当者によると、

「設備が壊れてしまっては仕方ないので、配管を含めてしっかりとした耐震性がなければならない。どういう形で補強するか評価を進めているところ」

と、設計すら固まっていないのが現状だ。

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