巨人のドラフト1位、菅野智之(東海大)の本拠地デビューは散々の内容だった。2013年3月3日のソフトバンクとのオープン戦。「怪物」と呼ばれた江川卓投手も勝てなかった「一浪のツケ」という声が上がっている。
チーム期待の「日曜日デビュー」も4回8安打4失点
先発した菅野はたたきのめされた。4イニングを投げ、8安打を浴び、4失点。それも立ち上がりに先頭打者に二塁打されるなど4長短打で3点を奪われ、3回にも1点を失った。プロの洗礼である。
「こんなピッチングをしていたら次はない…」
自分でも驚いた結果なのだろう。大変なことをしてしまった、というような力のない言葉だった。
キャンプでの評判は良かった。
「素晴らしい素材だ」と絶賛したのは終身名誉監督の長嶋茂雄。その他の評論家も「使える」という点で一致していた。日本ハムの大谷翔平や阪神の藤浪晋太郎らの高校生ルーキーが騒がれるなか、菅野は大学での実績を披露していた。
巨人も菅野の扱いはVIP待遇で、登板した日は日曜日。期待のほどを示している。ところがお粗末な内容に終わった。折しもこの日はWBCの日本代表が中国戦に勝って第2ラウンド進出が決定的に。おかげでメディアの関心は菅野を隅っこに追いやった。
「自主トレ」と「プロの練習」の違いまざまざ
菅野は一浪している。一昨年秋のドラフト会議で日本ハムから1位指名されたが、入団拒否。「なにがなんでも巨人」との意思を貫いた。彼は巨人の原辰徳監督の甥であり、親族すべて「巨人愛」だった。
問題は1年間のブランクである。大学のグラウンドで練習を続けていたというものの、プロの練習と孤独な「自主トレ」ではかなりレベルが違う。
「無駄な1年間」とはプロ野球関係者の共通した意見である。「特に投手にとっては1年間のブランクは大きく響く」という。
思い出すのは江川である。法大時代に東京六大学リーグ戦で通算47勝(歴代2位)をマーク。「怪物」といわれた大物だった。それが1位指名を蹴って米国へ留学。つまり一浪の道を選んだ。巨人に入団した1年目は9勝10敗と予想外の結果だった。20勝したのは3年目である。
「江川ほどの逸材でも1年空いたら簡単には勝てない。そのくらい単独練習は量も質も足りない。素直にプロ入りしていたら新人20勝も夢ではなかった」。当時、関係者はそう言っていたものである。
菅野と江川を比べたら、だれでも江川の素質が上位と認める。その江川でさえ一浪のツケに負けた。ましてや菅野クラスでは、ということなのだ。
ひな祭りの登板は厳しい警鐘、と菅野はとらえていることだろう。「今後、生かすも殺すも自分次第」と気持ちを引き締めている。「一浪のジンクス」にどう立ち向かうか。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)