小売り大手のローソンやセブン&アイ・ホールディングス(HD)で、社員の賃金が相次いで引き上げられるなか、ファミリーマートに注目が集まっている。
甘利明経済財政・再生相が2013年3月5日、閣議後の記者会見で、「次はファミマに期待している」と語ったためだが、大臣が一企業の賃上げに言及、しかも「名指し」するのはかつてない、異例なことだ。
甘利大臣の発言は「行き過ぎ」か
正社員の賃上げの動きは、安倍晋三首相が2013年1月12日に開いた経済3団体のトップとの会合で、業績が改善している企業から報酬を引き上げるように要請したことがきっかけ。
この要請に、いち早く応じたのがローソンだ。同社は13年度から、グループの20歳代後半~40歳代の正社員約3300人のほぼ全員を対象に、年収を平均3%引き上げると発表。さらに子供が3人いる社員の場合では平均6%増と、子育て世代を手厚くする方針をも打ち出した。
甘利大臣は「大変ありがたいこと」と手放しで喜び、ローソンに続く企業が現れることへの期待感をにじませていた。
一方、セブン&アイHDは2013年3月4 日、今春のベースアップ(ベア)の実施を発表。傘下のイトーヨーカ堂、そごう・西武などのほか、対象はグループ全体で54社(組合員など5万3500人)にのぼる。
イトーヨーカ堂のベアの実施はじつに4年ぶり。同社は組合員平均(41歳)の給与を前年比1.5%増にあたる5229円引き上げる。内訳は、定期昇給が4322円(1.24%)、ベアが907円(0.26%)だ。
ローソン、セブン&アイHDと小売り大手の賃上げが続いたことで、甘利大臣もつい口が滑らかになったのだろう。「一時金(の引き上げ)も含めていい流れになってきた。ローソン、セブンイレブン、次はファミマと期待している」と語った。
定昇やベアについて、「労使の賃金交渉のなかで取り組んでいかれるものであるので、政府としてそこまで強制をするような立場にはないから触れていなかった」とも話したものの、甘利大臣の発言は、いくらなんでも「行き過ぎ」との声は少なくない。
ファミマ、13年度は「定昇1.5%アップ、ベアなし」
経済アナリストの小田切尚登氏は、「政治家が民間企業の経営に口出しすることなど、あまりに常識はずれ。米国だったら、逆に訴えられる可能性だってあります」と、呆れる。
もっとも、米国企業であれば政府が何を言おうと意に介さないが、日本の場合は「政治家に何か言われると無視できない」という風土があって、経営者への「暗黙のプレッシャー」にもなりかねない。
甘利大臣に名指しされたファミリーマートに、賃上げ交渉のゆくえを聞いてみると、「じつは2月に、すでに労使間で妥結しています」と、明かした。
その内容は、「定昇1.5%アップ、ベアなし」というもの。同社は、「12年度では定昇とベアとあわせて約3%賃上げしていて、賞与を含めると3.5%の増加率になります。今年度は、昨年実績も考慮してのことです」と説明している。
「甘利発言」は影響のしようがないようだが、今後について同社は「具体的なことは何もありませんが、ファミマ・グループとして社員の所得が増えることによって、経済や社会の活性化に寄与していきたいと考えており、そのように取り組んでいきたい」と話す。