ヤマザキマリさん作の漫画「テルマエ・ロマエ」が映画化され、興行収入の割にヤマザキさんに支払われる原作使用料が低額だったという騒動について、ヤマザキさんの代理人を務める弁護士がコメントを発表した。
書籍の二次利用について出版社が独自の権利を主張しつつある中、出版業界は作者の権利がないがしろにされていると言ってもいい状況に陥っていることが、今回の騒動で明らかになった。
「金額が不満なのではなく、十分な説明なかったことに疑問」
発端は2013年2月23日放送の番組「ジョブチューン ~アノ職業のヒミツぶっちゃけます!」(TBS系)に出演したヤマザキさんが、「映画『テルマエ・ロマエ』の興行収入が58億円だったのに原作使用料として支払われたのが100万円だった」と明かしたことだった。ヤマザキさんは他にも「権利を出版社に売ってしまう形になるので、100万円で何やってもいいよっていう状況に」「知らないうちに出版社から『あんたの所に後で100万円くらい入るけどあれが原作使用料だから』って」「丸1日かかる番宣もノーギャラ」といった内情を暴露し、インターネット上で「そんなに安いのか」と驚きが広がった。映画の製作にフジテレビが関わっていることから、フジテレビへの批判の声も高まっていた。
騒動を受け、ヤマザキさんの契約交渉や契約管理などの代理人を務めている四宮隆史弁護士がコメントを発表した。
フジテレビと直接の契約関係にあるのはヤマザキさんではなく出版社(エンターブレイン)で、フジテレビが原作使用料を低額に抑えたなどの事実はない、とした上で、ヤマザキさんは100万円という金額に不満を抱いているわけではなく、金額設定について出版社から十分な説明を受けていないことに疑問を抱いていると説明。作者の知らないところで第三者同士が作品の価値を決め、十分な説明もなく結論だけ知らされることで「作品をリスペクトする気持ちがないのではないか?」という不信感につながっていくとしている。
さらに四宮氏は、最近の紙媒体の事業の低迷などにより、出版社が書籍の電子化や二次利用について独自の権利を主張し始め、それを守るために作者に十分な説明をせず、作者は自分の作品がどんな条件で売られているか知ることも出来ないという問題点を指摘している。
イタリア人の夫から「ノーギャラおかしい」指摘される
今回の問題について、四宮氏からさらに詳しく話を聞くことができた。
四宮氏は映画公開の約4か月後、12年8月頃からヤマザキさんの代理人を務めるようになった。それまで契約交渉や契約管理は全てヤマザキさん1人で行っていたが、手が回らなくなり、専門家に依頼することになったという。
ヤマザキさんの夫はイタリア人の文学研究者で、現在2人は米シカゴに住んでいる。映画化にともなってヤマザキさんが多忙になり、家族と過ごす時間が減ったことで家族の中で問題になったことがあった。「それでいくらもらっているのか」と聞かれ、原作使用料の額や番宣はノーギャラという話になり、「それはおかしいだろう」となったそうだ。
四宮氏が代理人になってからは、出版社と定期的に協議し、製作が決まっている映画「テルマエ・ロマエ」の続編の原作使用料の取り決めや、1作目の原作使用料も含めた過去の契約の見直しについて話し合っているという。
ちなみに、テレビドラマ・映画「海猿」シリーズの原作者である佐藤秀峰さんも、11年9月、ツイッターで原作使用料の問題点を指摘していた。
「一般論としてですが、マンガを原作に映像作品が作られた場合、原作者である漫画家に支払われる原作使用料の相場は以下の通りです。1時間テレビドラマであれば、20~30万円、映画であれば100~200万円。1クールドラマをやれば200~300万円です」
「視聴率や興行収入に応じて、成功報酬が支払われる例は少なく、1回原作使用料を受け取ってお終いというのがほとんどです」
「出版社は『例え原作使用料が安くても、映像化が宣伝になり、単行本の売り上げが伸びるので、損を飲んで得を獲れ』的なことを、漫画家に対して言います」
佐藤さんは現在、「ブラックジャックによろしく」など自身の作品の著作権を100%所有し、全話無料公開、商用・非商用を問わず2次利用完全自由という画期的な試みを行っている。
一方、映画製作者サイドからすると。一般的に作品が「コケる」リスクが大きいこともあり、原作料は安くしておきたいというのが本音。出版社は映画化が宣伝になり、原作の売れ行きに貢献することから、値切られても応じざるを得ないのだという。