長崎・対馬の寺から盗まれ、その後韓国で見つかった仏像。当然日本側に返還されると思われたが、韓国の裁判所が「当面は戻してはならない」という驚きの仮処分決定を下した。
数百年前、仏像が朝鮮半島から日本にもたらされた経緯が正当な手続きを踏んでいたのか、奪ったのかがわからないという。韓国側では「戻す必要なし」「盗んだものは戻すべき」と意見が割れているようだ。
朴槿恵・新大統領に関心集まり「トップニュースではない」
韓国・大田地裁の仮処分内容は、仏像が正当なルートで日本に渡ったかどうかが証明されるまで、日本に返却してはならないというものだ。犯罪に厳格であるべき裁判所が、盗品を認めるような判断をするとは通常考えられない。
現地メディアは、今のところ淡々と報じているようだ。有力紙「中央日報」日本語電子版は2013年2月27日、裁判所の仮処分決定の事実のみを伝え、翌28日には仏像を盗んだ後に逃亡していた3人が逮捕され、窃盗団による盗みの具体的な方法が明らかになりそうだとの見方を示した。主要テレビ局のひとつ「MBC」は2月28日放送のニュースのなかで、15世紀ごろにたびたび外敵が現れて文化財を盗んでいったため、問題の仏像ももともと日本が奪った可能性を指摘しつつ、日本側が国際法に基づいて返還を要求してくれば、両国間の新たな火種になるのではと懸念を伝えている。
一方国内では、「モーニングバード!」(テレビ朝日系)が2月28日放送の番組で取り上げた。裁判所の判断について、ソウル市内で通行人に意見を求めたところ、「もともと韓国にあったものを日本が持っていったのだから返還の必要はない」「(盗品という)不当なルートだとしても、本来の持ち主はわれわれ。韓国に戻すべき」との意見が出た。方法はどうあれ、奪われたものが戻ってきたのになぜ返さなければならないのかとの「開き直り」にもとれる。だが一方では「(日本に)返すのは当然」「いったん返還して、話し合った末に韓国に持って来てはどうか」と冷静に対処すべきと考える市民もいた。犯罪で手に入れたものをそのまま持ち続けるのは許されない、というわけだ。
「韓国メディアは裁判所の判決について報じていますが、トップニュースの扱いではありません」とJ-CASTニュースの取材にこたえたのは、現地在住の韓国人ジャーナリスト。2月25日に朴槿恵大統領が就任したばかりで、関心が新大統領の動向に集まっているためだ。
市民の多くは「仏像は対馬から盗まれた」
とはいえ韓国側が無関心であるわけでもないと、このジャーナリストは続ける。ある週刊誌は、仏像がどのような道のりをたどって対馬に行きついたかを検証する特集を組んだそうだ。もともと仏像を所有していたと主張する韓国の寺の言い分を全面的に支持する論調の地方紙もあるにはある。ただし「主要メディアがこのようなスタンスをとっているのではありません」。
一般市民はどう思っているだろうか。韓国人ジャーナリストは「両国間の微妙な問題で、市民感情をひとまとめにして言い表すのは難しいですが」と前置きしたうえで、「仏像は韓国でつくられたもので、どういった経緯で日本に渡ったかがはっきりしない」と考えている人が少なくないと推測する。そのため、裁判所の判決にあえて口を挟む必要性は感じていないようだ、と話す。
「日本にある韓国の文化遺産を取り戻そう」と主張する一部の市民グループは、声高に仏像をそのままとどまらせようとしているようだが、「多くの人々は『仏像は対馬から盗まれたもの』と理解しています」。