家電量販店でのパソコン(PC)販売に、ちょっとした異変が起きている。店頭でPC購入と同時にインターネット回線を契約すると、PCの購入価格から値引きが受けられる特典がなくなったのだ。
大手量販店では現在、契約したネット回線工事が完了した時点で現金や商品券を提供する方式に変更している。値引きから変わった理由は何なのか。
回線工事完了を証明しないと「特典」受けられない
量販店を訪れた際に、「PCが100円で買える」と書かれた広告を見たことのある人は少なくないだろう。PCの機種は限定され、特定のネット接続業者と2年間の回線契約を結ぶことが条件となっていたが、それでも通常数万円はかかるPCがわずか100円で購入できるとあって話題を集めた。
このサービスが、いつの間にか終了してしまったようだ。確認のため記者は、東京・新宿の量販店を回ってみた。
訪れた数店舗では、確かにどこも「100円PC」を掲げていなかった。だがPCコーナーをのぞくと、店によって違いはあるが「最大3万円キャッシュバック」や「商品券3万円分プレゼント」といった表示が目に入ってきた。
仕組みはこうだ。まず店頭で、指定されたネット接続業者と2年間の契約を交わす。数日後に回線工事が完了し、業者から「開通証明書」を渡される。これを必要書類とともに店舗に持参すると、現金や商品券がもらえる。
PCを購入する際に値段が下がるわけではない。だが、最初にネット接続を完了させて現金や商品券を手に入れ、その後PCを買えば、事実上値引きされたのと同じと言える。とは言え消費者にとっては、特典を受けるために再度店頭に足を運ぶ必要があり、最初から値引きしてもらえた方がありがたいに違いない。
「100円PC」自体が期間限定のキャンペーンだったのか、との予想も外れた。実はPCの値引き特典が廃止されたのは、2013年3月に入ってからで、大手量販店ではどこも「横並び」で実施されたのだという。
「特典を悪用する事例が後を絶たず、中止せざるをえなかった」
というのが、店側の本音とみられる。警察からの中止要請があったという声も聞かれた。例えばPCを安価で手に入れた後、業者が回線工事に現れても強引に拒み続けたり、ひどいのは回線契約の申し込み時にでたらめの住所を書き込んだりする顧客もいたようだ。
ネット回線契約で架空の住所を記入
これまでに値引き特典を使ってPCをだまし取り、逮捕された例は少なくない。最近でも2013年2月12日、5万2500円のノートPC1台を全額値引きさせたうえで詐取した疑いで、男女3人が逮捕されたという。報道によると容疑者は、居住実態のないアパートの空室に住所変更を何度も行い、家電量販店でネット接続業者と契約する際に「架空の住所」を記入していたようだ。実際に住んでいないのだから、回線工事に業者が訪れても本人がいるはずがない。虚偽の契約で、まんまと「0円」となったPCをせしめたわけだ。犯行は悪質で、こうしたPCを転売して約180万円を荒稼ぎしていたという。
2012年5月にも、大阪で同様の手口で3人が逮捕されている。本人確認のため店員に提示する運転免許証に偽の氏名をシールで貼りつけ、回線契約書には虚偽の内容を書き込んだそうだ。同月に埼玉県で逮捕された姉妹は、首都圏で12件の「PC詐欺」にかかわったと報じられた。
こうした悪事が一向に収まらないせいで特典が消滅したとすれば、消費者にとっては迷惑な話だ。テレビ通販やオンライン通販では、今も「0円PC」や、値引きではないが回線契約と低価格PCをセットにした商品は残っている。しかしどこも「ネット回線開通後」の商品発送を条件にしており、特典だけを手にして逃げてしまうのを防いでいるようだ。