就職先として人気のある企業のベスト10を、大手保険会社やメガバンクが独占した。
日本経済新聞社が2014年春卒業予定の全国の大学生を対象に調査した就職希望企業ランキングによると、第1位に日本生命保険、2位が東京海上日動火災保険、3位に第一生命保険と、保険会社が並んだ。それどころか10位まで、すべて金融機関なのだ。
目を覆いたくなる自動車、電機の凋落
以下を見てみると、
4位 三菱東京UFJ銀行
5位 三井住友海上火災保険
6位 三菱UFJ信託銀行
7位 みずほファイナンシャルグループ
8位 三井住友銀行
9位 三井住友信託銀行
10位 明治安田生命保険
と続く。これには、さすがに違和感を覚えた人が少なからずいたようだ。
元銀行マンで、経営コンサルタントの大関暁夫氏は、「ここ2~3年は長引く不況で安定志向の学生が多いと聞きますから、就活における金融機関の人気も高まっているのでしょう。それにしても、トップ10がすべて金融機関というのはおそらく史上初では。金融機関志望が悪いわけではありませんが、考えようによってはあまりに『夢』がなさすぎる気もします。学生の皆さんは金融機関に入って、いったい何を望んでいるのだろうか、などと思います」と話し、銀行などの「黒子」が目立つ社会では活力が失われると嘆く。
一方、製造業の人気低迷は深刻だ。海外勢との競争激化や業績悪化に伴うリストラ報道が相次いだこともあってか、とくにトヨタ自動車やホンダ、ソニーやパナソニックといった人気上位の「常連」だった自動車や電機メーカーの凋落ぶりは目を覆いたくなるばかり。日経のランキングでは、トヨタが41位、ソニーが60位、パナソニック77位、ホンダは83位だった。
「海外で活躍したい」という学生が目指した大手商社も、いまは三菱商事が20位、三井物産が29位に登場するのがやっと。ANAグループ(11位)や旅行会社のジェイティービー(19位)もベスト10圏外となった。
消去法で、リストラもなく、給料もいい、金融機関が残った?
もともと、金融機関には「堅実」なイメージがある。金融危機が去ってリストラもなく、給料もいい。加えて採用人数が多いことも、就活生には魅力だ。
金融機関の人気について、就活に詳しい大学ジャーナリストの石渡嶺司氏が注目するのは、職種が多様化して、女性が働きやすくなった点だ。
金融機関では、かつては総合職と一般職しかなかったが、専門職や地域限定の総合職などが設けられるようになった。「最近はそういった職種が定着してきて、実際に職場に多くの先輩女性が働いています。そういった姿をみていて、結婚や出産、育児、復職後なども含め、自分がその職場でどうキャリアを積めばよいか、想像しやすいわけです」と話す。
また、「金融機関以外となると、たとえば営業職でも、本社とは別に販売子会社で採用選考を行いますが、金融機関は支店勤務でも本社が一括採用するのでブランドイメージが損なわれないと考えているようです」ともいう。
まだある。最も大きな要因は、「就活への親の介入にあります」と指摘する。「商社や航空会社、食品会社などにも、『就職したい』という学生はいます。しかし、商社は海外が危険だとか、メーカーは競争が厳しいとか、食品は営業職がキツイとか、いろいろと言われるうちに萎えてしまう」。結果的に金融機関しか残らないというわけだ。