アメリカのインターネット検索大手Yahoo!(ヤフー)が、在宅勤務の従業員全員にオフィスでの就業を求めたとされる「内部メール」が流出して、話題になっている。
「オフィスで働くか解雇か」
アメリカのネット上では、時代の最先端を走る巨大IT企業がワーク・ライフ・バランス重視の潮流に「逆行」するようだと批判的な論調が張られる一方で、日本の専門家は「イノベーションは人と人とのつながりから生まれる」との見方を示している。
「私たちは一つのヤフーになる必要があり、それは物理的に一緒にいることから始まるのです」
問題のメールは2013年2月22日、米ITサイト「All Things D」に全文が掲載された。それによると、米Yahoo!(ヤフー)の人材部門長が、6月から在宅勤務の従業員にオフィスで働くことを求める方針を、従業員に通達した。
「転送禁止」とタイトルに書かれた「流出」メールの一部を抜き出すと、
「サニーベールからサンタモニカ、バンガロールから北京(編注:Yahoo!のオフィス所在地)―私は、みんながオフィスでエネルギーと活気を感じられると思っています」
「働くのに完全で最高な場所になるためには、コミュニケーションとコラボレーションが重要になります。なので、私たちは隣あって働く必要があります」
「良い決定や洞察は、廊下やカフェテリアでの議論、新しい人と会うこと、そしてミーティングに飛び入りで参加することから生まれることもあります。在宅勤務ではしばしば、スピードと質が犠牲になります。私たちは一つのヤフーになる必要があり、それは物理的に一緒にいることから始まるのです」
「ヤフーの従業員であることは、あなたの食い扶持に関わるだけでなく、オフィスの中だけで可能な相互作用と体験にまつわるものなのです」
などと書かれていた。
All Things Dによると、米Yahoo!にはこの影響を受けると見られるカスタマーサービス部門など数百人の従業員がいて、週に2~3回在宅勤務するような勤務体制の人もいるそうだ。
これを受けて、より柔軟に働けると思って仕事を選んだ従業員は当然、怒りのコメントを相次いでメディアに寄せた。また、ニュースサイトでも、これまで提唱されてきた「ワーク・ライフ・バランス」の考え方や、在宅勤務が生産性を上げるとする研究結果の逆を行っている、などと批判的な論調で書き立てている。
「人と人とのつながりからイノベーションが生まれる」
ただ、創造性を重視して社員を一つの場に集めようとすることはIT企業の集積するシリコンバレーでは珍しくない。Yahoo!CEOのマリッサ・メイヤーの古巣・Googleには、大学のキャンパスを模した巨大なオフィスがある。そこに、無料の食堂やジムが用意されているというのは有名な話だ。
人材資源管理に詳しい東京理科大学の西村孝史准教授(経営学)はJ-CASTニュースに対して、「人と人とのつながりからイノベーションが生まれる」と前置きした上で、在宅勤務では「Face to faceと違い、言葉のニュアンスや意味合いが通じず、即興性が生まれ辛い」と指摘した。ワーク・ライフ・バランスで得られた家族の時間が創造性に寄与することも確かにあるが、オフィスで生まれるものとは質が異なるという。
一方で、一つの場に集まって、悩み相談やアイデアの共有が比較的しやすい状態をつくることは、従来、オープン・ドア・ポリシーと呼ばれ重要視されてきた。そういう意味では今回のYahoo!の決定は「逆行ではないが、再発見のようなもの」と話す。
また、日本よりも多様性の強い欧米では、一つの場所に人が集まることで新しいアイデア自体はすぐ出るのだという。ただ、時間がたつにつれてその効果は薄まってしまうため、
「(当初は)多様な人を分散させることによってアイデアを得ようとしていたが、予想以上に上手くいかなかったので、今度は振り子を戻したという形でしょう」
との見方を示した。
在宅勤務の普及・啓発活動をおこなう日本テレワーク協会では「在宅勤務は、『全くやらないか、無制限にやるか』『0か、1か』というものではなくて、柔軟な働き方のひとつとして、状況に応じて効果的に実施できるものだと考えております」とし、その上で「(Yahoo!の)今回の見直しによって、どのような影響が出てくるのか、注目していきたい」とコメントした。