東京・吉祥寺の閑静な住宅街で2013年2月28日未明、女性を襲う強盗殺人事件が起きた。「住みたい街No.1」、多くの人が憧れる土地でなぜ――。そう思った人は多いはずだ。記者が現場を訪れて見えてきたものは……。
人気の街のいわば「死角」で、凶行は発生した。
現場は、一帯のメインストリート・吉祥寺通りからひとつ角を折れた「大正通り」だ。被害者の女性(22)は、この通りに入って5分ほどまっすぐ歩いたところで、後をつけてきた犯人に背後から刃物で刺され殺害されたと見られている。
街灯も減り、急に寂しくなる場所
通りは車2台がようやくすれ違うほどで、決して広くはない。しかし商店などが多くあり、比較的にぎやかな一角だ。近所に住んでいる女性も、意外そうにこう語る。
「お店がたくさんあるのでよく買い物に行くところです。人が大勢住んでいるし、ひったくりなどの話も聞かない。とても安心という印象があり、こんなことがあるとは思ってもいなかったのですが……」
記者が訪れた3月1日午後も、学校帰りの小学生を始め、大勢の人が行き交っていた。
しかし実際に歩いてみると、通りに入ってすぐは多かった店も少しずつ減っていき、事件現場付近では、昼間でもシャッターを下ろしたままの店も見られるように。街灯の数も目立って少なくなる。遺体が発見されたのは商店街が終わり、住宅街に入るちょうど境目だ。やはり近所に住む男性によれば、夜はかなり人通りも減り、暗い印象があるという。
路地に入ると、ひったくり・空き巣注意の看板
通りを歩いてみて気づいた点があった。「閑静な住宅街」というイメージからは意外だったが、あちらこちらに「落書き」が見られたことだ。事件現場すぐそばの駐車場にハートマークや「HYTY」と読める文字が書かれていたのを始め、近隣の民家のブロック塀にスプレー缶による稚拙な落書きの痕跡が点在していた。それも1つや2つではない。
また大正通り自体ではそれほど目立たないが、さらに曲がって路地に入ると、空き巣・ひったくりなどへの注意を呼びかける看板もあちこちに見られた。
警視庁の統計によれば、吉祥寺がある武蔵野市のひったくり件数は年に14件、侵入窃盗は69件(2012年)で、都内のほかの地域と比べればそう高い部類ではないが、安全な街とは言えない。同じく警視庁が公開している「犯罪情報マップ」でも、現場は吉祥寺駅前より比較的安全とされている。