日本国内有数のシェアを持つウェブサービス大手「FC2」は、米ラスベガスに本社を置く「海外企業」だ。創業以来ほぼ日本のみで事業を展開しているのに、日本には支社などを置いていない。業務は別の日本の会社に委託しているため、「謎の会社」という人さえいる。
利用者による中傷行為をめぐり、同社は2013年2月6日東京地裁から発信者情報開示の仮処分命令を受けた。米国の地元警察が強制捜査を断って、事態は手詰まりになり、2012年追加されたばかりの法律が適用されてようやく仮処分にこぎつけた、という。
ネバダ州の警察は協力を拒否
FC2は1999年創設、会員数は2011年時点で1000万人。特にブログサービスでは国内最大手の一角で、動画でもニコニコ動画に続くシェア第3位を占める。
公式サイトによれば代表者はLance Wolff Kerness氏、所在地も「101 Convention Center Dr.Suite 700 LasVegas,NV 89109」としているが、本拠地のはずのアメリカなどでは目立ったサービスを展開しておらず、実際アクセスの95%以上は日本から(アレクサより)。ただ、日本国内には拠点を公式には置かず、あくまで米国から日本に向けて事業を行っているとしている。
今回の裁判は、同社の看板サービス「FC2ブログ」をめぐって起きた。担当した弁護士法人港国際グループの最所義一弁護士によれば、同サービスを利用して開設されたブログで、ある人物への悪質な誹謗中傷が相次いで投稿された。
中傷を受けた人物は警察に相談した。最所弁護士が警察側から聞いた話によれば、FC2は当初捜査および記事の削除に協力していたが、投稿者は次々新しいブログを作って、同様の中傷を続ける中、途中からこれを拒否したという。
警察はICPOを通じ、ネバダ州のサーバーを捜査しようとしたが、地元警察が強制捜査を断り、事態は手詰まりになった。そこで最所弁護士らは、2012年改正された民事訴訟法の新規定を元に、プロバイダ責任制限法に基づき、FC2に情報開示の仮処分申し立てを行った。
FC2に限らず、近年は海外に本拠を置き、日本に支店などを作らないままで事業を行う企業も増えている。しかし、これまでの法律では、日本に営業所を持たない海外企業については、管轄の関係上国内で裁判を起こすことが難しかった。12年の改正はこうした事態に対応したもので、日本で営業を行っている会社なら、支店などはなくとも国内で裁判を起こせるようになった。FC2はちょうどこの規定に該当する。今回は、いち早くこの法律を活用したというわけだ。その後2月6日、東京地裁から仮処分命令が出されたという。
FC2「ネバダ州に従業員もいる」
FC2にこの件について問い合わせたところ、すでに代理人弁護士を通じて仮処分命令発令を確認し、発信者情報の開示を行ったという。また、
「当社としては、従前から、警察および裁判所など公的機関からの正式な照会には極力協力をさせていただいておりました。今回も従前同様の対応をさせていただきました」
と、公的機関には積極的に協力していることを強調、11年度は裁判所からの照会3件に応じたことを明かした。
なお最所弁護士はブログで同社に対し、
「会社自体は、ネバダ州にありますが、おそらくペーパーカンパニーです。実質的な運営主体が日本国内にあることは間違いないと思いますが、その運営実態は依然不明なままです」
と指摘しているが、FC2では、
「当社は、ネバダ州内に、オフィスを賃借し、従業員を雇用しております。また、アメリカ内にデータセンターを設置しサービスを運営しており、アメリカの法律に従い、アメリカで納税もしております」
として強く否定し、「法的措置も含めて検討をしている」という。