実際には存在しない発言だった
「誤解を招く」のは中国メディアの記事よりも、ワシントン・ポストの記事だった可能性が高い。同紙のサイトに公開されているインタビュー全文によると、記事で強調されている「ingrained」という単語は、実は2カ所しか登場しない。
インタビューでは、安倍首相は(1)中国で行われている愛国主義的教育は反日教育でもあり、改革開放政策が始まってから顕著になっている(2)その過程で、経済的資源を獲得するために、中国は南シナ海と東シナ海で強制力と威嚇による行動を起こしている(3)このことは、愛国主義を強調する教育システムで育った国民からの強い支持につながっている(4)これは中国が直面するジレンマ。愛国教育で生み出されたものは友好関係を阻害し、経済に悪影響を与える。これは中国政府も認識している、と現状分析している。これを受ける形で、記者は
「その理屈でいけば、中国では、その問題は非常に根深い(very ingrained)ことになる」
と指摘。これに対して、安倍首相は、
「まず大切なのは、指導者も経済人も、この問題がいかに根深いか(how deeply ingrained this issue is)を認識することだ」
と応じた。
つまり、見出しやリード文にある「中国の紛争へのニーズは『根深い』」という安倍首相の直接的な発言は、実際には存在しなかったことになる。
ワシントン・ポストは菅官房長官の発言を報じる中で、
「日本政府は、ワシントン・ポストのウェブサイトに掲載されているインタビュー全文は正しい、と話している」
と説明しているが、菅長官が「誤解を招く」と指摘した点については、特に反論はしていない。