遠隔操作ウイルス事件を担当する佐藤博史弁護士が、ジャーナリストの江川紹子さんによるインタビュー取材で、えん罪の可能性を訴えたことが反響を呼んでいる。
佐藤博史弁護士は、えん罪が判明した足利事件を担当したことで知られる。そのインタビューは、ヤフー・ニュースのコラム「江川紹子の『あれやこれや』」で2013年2月19日、その日のうちに載った。
猫に首輪の証拠迫ると、警察・検察は沈黙
コラムでは、佐藤弁護士がインタビューに対し、マイクロSDカードを付けた首輪を猫に着けたとされる1月3日に、片山祐輔容疑者(30)が江の島の現場に行ったと言っているとは認めた。しかし、4、5匹の猫と接触して、写真を10~15枚撮っただけと話したといい、疑問に思った佐藤弁護士は接見後、取調官に決定的な証拠を示してほしいと迫った。
すると、警察側は、「マスコミが勝手に書いているだけ」などと答えるに留まった。そこで、今度は検事に、本人が猫に首輪をつけたことを示すような防犯カメラの映像はないのではないかとただすと、沈黙するばかりだったという。
警察は、片山容疑者を尾行して、猫を撮ったスマホを片山容疑者が1月中旬に売却すると、すぐに回収して写真を復元している。しかし、佐藤弁護士はインタビューで、警察が片山容疑者に見せた復元写真は、事件とは無関係なものばかりだったと指摘した。
また、ウイルスのプログラミング言語は「C♯」だったが、片山容疑者はC♯は実行できるか確かめたことはあるものの、プログラムは書けないと佐藤弁護士に話したとした。録音・録画しないと取り調べに応じないとしているのは、それにもかかわらず警察がC♯を使えると調書を作っているからだと主張している。
インタビューでは、最後にマスコミを批判し、最近はFBI捜査の話にすり替えられており、警察の情報操作に使われていると指摘している。
若狭勝氏「証拠はあるはずだが、有罪かは疑問」
警察や検察は、事件捜査に当たって、公判維持のために「隠し球」を持つことがあると言われる。今回、猫に首輪を着けたかどうかを巡って、写真などの隠し球を用意しているという可能性はないのか。
この点について、元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は、「隠し球があるかはよく分からない」としながらも、何らかの証拠はあるのではないかとみている。
「今回は、遠隔操作による誤認逮捕の流れで来ています。ここでまた間違えて証拠もないのに作り上げて逮捕するようですと、警察の威信は地に墜ちてしまいます。そこまでリスキーなことはしないはずで、どんなものかまだ分かりませんが、少なくともそこそこの証拠があるのではないでしょうか」
ただ、若狭氏は、起訴をして有罪に持ち込むのに十分かは、疑問の余地があると指摘する。
「たまたま犯人がバーチャル空間から表に出てきたことがきっかけですが、防犯カメラなどからの状況証拠では、必ずしも犯人だとは断定できません。もし共犯者がいて、頼まれてやったと弁解すれば、立証が難しくなる可能性があります。サイバー犯罪は、ネット上の分析で特定することが立証を固くしますし、本来は望ましかった。FBI捜査で分かることもないではありませんが、それで有罪になるかは何とも言えませんね」
弁護側は警察やマスコミを批判しているが、それについては、若狭氏も理解を示す。
「録音・録画を弁護人が要求したら、やらないといけないと思いますね。痛くもない腹を探られることにもなりますし、警察や検察も自分たちの助けにもなりますから。えん罪の可能性があるわけですので、マスコミも警察の捜査を鵜呑みにするのではなく、もっと監視を強めていくことが大事だと思いますよ」