第2次世界大戦が終わってから67年が過ぎているのに、著作権料をめぐっては、日本はまだ敗戦国扱いのままだった。
日本音楽著作権協会(JASRAC)によると、日本は著作権料を支払う必要のある作品の保護期間を、作者の死後50年間と定めている。しかし、米国や英国、フランスなど「戦勝国」の作品には、約10年長く支払わなければならない。
敗戦国の中で日本にしか課せられていないルール
文部科学省によると、この国際ルールはサンフランシスコ平和条約第15条の規定(連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律により措置)に基づき、日本が連合国に対して負う「義務」として課されている。
米国や英国、フランス、カナダ、オーストラリア(3794日)、ブラジル(3816日)、オランダ(3844日)、ノルウェー(3846日)、ベルギー(3910日)、南アフリカ(3929日)、ギリシャ(4180日)などがあり、多くは約10年間の保護期間が加算されている。
JASRACは、戦時加算は戦争による著作権者の逸失利益の回復を目的に、欧州で自国の立法政策としてはじまった制度であり、敗戦国が条約による義務として負う性質のものではない、と主張。国際的にも、同じ敗戦国のイタリアなどが連合国と締結したパリ平和条約では「戦時加算は双務的に行うもの」として規定されており、またドイツも実質的な戦時加算の義務を負うことはなかったという。
つまり、同じ敗戦国でありながら、日本だけが条約に基づき一方的に戦時加算を課せられ、しかもその状態がいまも残っているというわけだ。
戦時加算の対象となっている楽曲には、たとえばジャズ・ファンにはおなじみのビクター・ヤングの「星影のステラ」がある。この曲は2006年末に保護期間が切れているが、日本では戦時加算で2014年4月28日まで保護されている。
そのため、あるミュージシャンが国内で開いたコンサートで、「星影のステラ」を演奏した場合、主催者はJASRACを通じて米国の著作権管理団体に著作権料を支払う必要があるが、そのミュージシャンが韓国で「星影のステラ」を演奏した場合には著作権料を支払わずに済んでしまう、といったことが起こるのだ。
戦時加算によって、日本が海外の作家に支払うためにJASRACが徴収した楽曲の著作権料は、2011年だけで1億6000万円にのぼる。
戦勝国の「納得」難しい? 政府間交渉でも時間かかる
そんな戦時加算について、JASRACはこれまで121か国4地域の230団体が加盟する著作権協会国際連合(CISAC)の総会などの場で日本への理解を求め、各国の著作権管理団体から自国の政府に働きかけてもらうことでルールの撤廃を訴えてきた。
しかし、民間レベルでの働きかけには限界がある。「戦時加算はサンフランシスコ条約によって課せられたこと。条約自体の変更は困難ですし、交渉するにも戦勝国の国益にかかわりますから、納得してもらうにはかなり高いハードルになるでしょう」(JASRAC)と、政府間交渉でも時間がかかりそう。
JASRACは、とにかく「それぞれの国との個別交渉を進めるしか道はない」とみて、ルール撤廃に向けて交渉するよう、早ければ2013年2月25日にも岸田文雄外相に申し入れる考えだ。