「キャプテンしばけば何とかなると思っているのですか?」 自殺した桜宮高生の「届かなかった手紙」

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   「なぜ、僕だけがあんなにシバキ回されなければならないのですか?」―――大阪市立桜宮高校で体罰を受け自殺したバスケットボール部主将の男子生徒(当時17)が、顧問の男性教諭(47)にあてて書いていた手紙の一部内容が公表された。

   他の部員から引き止められ、結局渡せなかったものだ。文章からは、被害生徒が「見せしめ」として理不尽な暴力を受け、精神的にも肉体的にも弱っている様子が見てとれる。

「たたかれてやるのは動物園やサーカスで調教されてる動物と一緒や」

   2013年2月13日、大阪市教育委員会はバスケットボール部顧問の教諭の懲戒免職とあわせて、「暴力と生徒の自殺に関連性が認められる」とする外部監察チームがまとめた報告書を発表した。

   「先生が練習や試合で、自分ばかりに攻めてくるのに僕は不満を持っています(原文ママ)」「●●さん(編注:外部講師)が講習会をしてくれた日、僕は●●さんが言っていることを自分なりに理解して一生懸命やりました。なのに、なぜ、翌日に僕だけがあんなにシバキ回されなければならないのですか?(原文ママ)」―――報告書によると、被害生徒が「私が今思っていること」と題したこの手紙を書いたのは2012年12月19日、自殺する4日前のことだ。

   前日(18日)に他高・他大の女子バスケットボール部員を相手にした練習試合があり、試合中の様子や試合後の練習態度を理由に、他の部員も見ている状況で、平手で数回叩かれた。報告書には、この手紙のほかに、その日のことを「もうわけわからないです」と書いた練習ノートも公表されている。このノートは教諭も読むことができるものだった。

   22日には試合中にプレーについてとがめられ、無言でいたところベンチで「やるのかやらんのかどっちや」と何度も即頭部などを殴られた。「やります」とこたえてようやく解放され、指示通り積極的なプレーをしたが、疲れたのかベンチに走って戻らなかったため、また平手で3回叩かれた。そして「たたかれてやるのは動物園やサーカスで調教されてる動物と一緒や、●●(編注:被害生徒の名前)は動物か」という言葉を浴びせられた。

   報告書には暴力を受けた他の部員の供述も載っているが、いずれも「チームに迷惑をかけた」「言われたプレーが出来なかった」「指導のため」といった理由を認識していて、理不尽だと思っている様子はうかがえない。

   事件発覚直後から生徒が「自分だけ」との思いを募らせていたという報道が出ていたが、報告書や手紙の言葉から、これが裏付けられたかたちだ。

手紙を渡そうとしたが、他の部員から引き止められた

   被害生徒は20日に顧問教諭にこの手紙を渡そうとしたが、他の部員から引き止められたため、思いとどまった。

   いったいなぜ、被害生徒だけが「理不尽」な暴力を受けたと感じ、その告発を他の部員は引きとめたのか。

   「見せしめは効率的だ」―――ノンフィクションライターの窪田順生さんは、「桜宮高校バスケ部キャプテンの自殺の原因は『体罰』ではない」と題した2013年1月17日付けのコラムでこんな分析をしている。

   そこでは「孫子の兵法」で有名な孫子の「見せしめ」メソッドを紹介した。女性だけで強い軍隊を作れと命じられた際に、2人の女性を「隊長」に任じ、彼女らが怠けたりふざけたりすると首をはねた。これをみた他の女性らは死に物狂いで訓練をするようになった、というものだ。

   その上で、この孫子に顧問教諭を、隊長に被害生徒をたとえ、

「士気を挙げたい独裁者からすると、『隊長』だけを吊るし上げればいいのでラクだ。また首をはねられる側じゃなければ、それほど恨まれないので、孫子のように『素晴らしい軍師』なんてもてはやされることもある」

と説いている。

   たしかに、顧問教諭をめぐっては事件発覚当初から、OBや保護者、在校生らによる擁護コメントが多くあがっていた。被害生徒が1人で思い悩み自殺にまでいたってしまった原因の一つには、こんな構図もあったのかもしれない。

「キャプテンしばけば何とかなると思っているのですか?毎日のように言われ続けて、僕は本当に訳がわからないとしか思っていません」

   届かなかった手紙には、こんな言葉も書かれていた。

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