天井板崩落事故で通行止めとなっていた山梨県の中央自動車道・笹子トンネル上り線(約4.8キロ)が2013年2月8日午後4時、約2か月ぶりに全面復旧した。
全面開通は当初2月下旬を予定していたことから、復旧時期の繰上げに地元経済界は歓迎する一方、「安全は確保されているのか」と不安視する声もある。
「真の意味での安全検証できていない」
山梨県内の運送関係者によると、笹子トンネルを頻繁に通過するトラックドライバーの中には、予定より20日ほど早い全面復旧を不安視する声もある。背景には、トンネル施設の老朽化が進む一方で、甘い道路管理を続けてきた中日本高速道路(名古屋市)への不信感があるという。
国土交通省の調べによると、笹子トンネル上り線では天井板のつり金具を支えるボルトの約6割が、接着剤不足やさびによる腐食で耐久力が不十分だった。つり金具を支えるボルトが過去に650か所以上も補修され、その多くは崩落現場近くに集中していることから中日本高速道路が危険性を認識していた疑いについても指摘されている。
また防災工学の専門家の一部は、国交省が事故後に設置した第三者機関「トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会」の結論が出ていない段階での全面復旧について、「真の意味での安全検証ができていない」と懸念を示す。
こうした意見について国交省道路局は「想定より早く全面開通に至った理由は、上り線の天井板撤去の作業が効率よく進んだから」と述べ、「事故の引き金になった天井板は上下線ともすべて撤去し、トンネル上部の覆工コンクリートの十分な強度も『調査・検討委員会』によって確認されている以上、安全性は十分に確保されている」と言う。
中日本高速道路は「強い決意で再発防止策に取り組んでいきたい」としている。
山梨、長野は早期の全面復旧を歓迎
一方、山梨県の横内正明知事は2月1日、笹子トンネルが1週間後の8日に全面復旧するという知らせを受け、以下の歓迎コメントを出した。
「開通目標を繰り上げたことは高く評価する。山梨県に経済に及ぼしているマイナスの影響について、1日も早く回復させる必要がある」
犠牲者9人を出した12年12月2日の笹子トンネル崩落事故以来、知事が言う「マイナスの影響」は大きかった。特に中央自動車道の沿線域の「峡中」(甲府市など)、「峡東」(石和温泉など)、「峡北」(清里、小淵沢など)という3つの圏域で深刻だった。
山梨県観光部によると、12年12月期の観光施設の入り込み客数は前年同期比で峡中26.5%、峡東28.8%、峡北19.3%それぞれ減少。峡北圏域のある施設は「4割以上も落ち込んだ」と声を落とす。
宿泊者数も3圏域すべてで前年より1割以上の落ち込みを示し、首都圏からの交通アクセスでは笹子トンネルを通過しない富士・東部圏域でも7%ダウンしたという。
「事業者は事故からの2か月間、コスト面で大変だった」。山梨県トラック協会もそう話し、中央道笹子トンネルの全面復旧を歓迎する。長野県のスキー場や観光施設も早期の全面開通を喜び、事故で減少した首都圏からの利用客回復を目指す。