2013年度の政府経済見通しは、国内総生産(GDP) 成長率を、物価変動の影響を除いた実質で2.5%、名目で2.7%とすることに決まった。大型の緊急経済対策を盛り込んだ2012年度補正予算などの積極財政で内需主導の回復が進むという想定だ。
名目の成長率が実質を下回り、デフレの象徴とされる「名実逆転」現象が、16年ぶりに解消されると予想している。だが、民間では名実逆転が続くとの見方が大勢で、政府見通しは期待を込めた努力目標の側面が強い。
公共事業の効果が早期に出るという見立て
「緊急経済対策の効果は今年度末から来年度にかけて現れる。即効性に注意した財政出動になっている」。甘利明経済再生相は2013年1月28日の記者会見で「実質2.5%成長」の根拠をこう説明した。1月11日に決めた経済対策のうち約5兆円の公共事業の効果が早期に出るという見立てだ。
政府が描くシナリオは、公共事業を中心とした10兆円超の緊急経済対策が下支えするうちに、円安効果もあって輸出が回復し、これに伴う生産や設備投資が拡大するというものだ。個人消費が2014年4月の消費税率引き上げ(5→8%)前の駆け込み需要も織り込んで1.6%増(2012年度見込みは1.2%増)と見込み、経済対策による60万人分の雇用創出効果などを含め失業率は12年11月実績の4.1%が3.9%まで下がると想定した。成長に応じて物価もプラスに転じ、消費者物価指数(総合)は0.5%上昇するとした。
民間予測は「1.5~2.3%にとどまっている」
しかし、21世紀に入って実質2%以上の成長は3年しかなく、実質2.5%成長というハードルはかなり高い。民間予測は「1.5~2.3%にとどまっている」(朝日新聞1月29日朝刊)という。
政府シナリオに民間が懐疑的なポイントの一つが公共事業の効果だ。公需のGDP寄与度を、政府は0.8%とみるが、民間エコノミスト10人の平均は0.6%と政府見通しより小さい(日経新聞1月29日朝刊)。民間が懸念するのは人材・資材不足。東日本大震災の被災地の復興事業にこれまで19兆円の予算がついたが、「人手や建設資材が足りず、工事がはかどっていない」(ゼネコン)。このため、新たにつけた予算も思うように執行できないとの見方が強く、専門家の間では緊急経済対策の公共事業約5兆円を使い切れないのでは、との見方が広がっている。
設備投資の伸びも民間予測は1.0%増程度の見方が多く、政府の3.5%増よりかなり慎重だ。企業収益は、この間の円安効果もあって改善しており、「ひところに比べ経営環境は好転しているが、投資は国内よりまず海外と考えている企業が多い」(エコノミスト)。
物価も、上昇に転じるのは簡単ではない。政府は公共事業を含む景気回復に伴い需給ギャップが縮小し、物価はプラスに浮上、総合的な物価動向を示すGDPデフレーターも0.2%上昇すると見込む。
政府が描く好循環が賃金上昇に波及するかがカギ
しかし、「政府の見通しのとおり実質2.5%成長できたとしても需給ギャップは解消せず、デフレ慣れした国民の気分が簡単には変わらない」(エコノミスト)ため、企業が値段を上げにくい状況は続くとの指摘が多い。このため、エコノミストは10人の平均で、成長率は名目1.6%、実質2.0%(日経新聞)となり、2013年度の「名実逆転」の解消は困難との予測だ。
そこでカギになるのが、政府が描く好循環が賃金上昇に波及するかだ。政府からは、安倍晋三首相が2月5日の経済財政諮問会議で「業績が改善している企業には、報酬の引き上げを通じて所得の増加につなげるようお願いしていく」と述べるなど、賃上げへの期待を示すが、春闘を巡っては、経営側のガードは堅い。
ガソリン価格がジワジワ上昇するなど円安により輸入物価上昇するのに家計収入は増えずに生活が苦しくなるだけの「悪い物価上昇」の懸念もささやかれる中、物価上昇が賃金上昇に波及して消費を拡大し経済を成長させる「良い物価上昇」をいかに実現するか。期待先行で滑り出し好調のアベノミクスは早速、真価を問われる。