柔道全日本女子の選手15人が訴えた暴力やパワハラは、一部報道にあるだけで、未だに具体的な内容がはっきりしていない。選手らは表に出るべきとの声が出る一方で、内部告発を守る必要も指摘されている。どうなるのか。
選手らが表に出るかを巡る議論は、JOC理事をしている自民党の橋本聖子参院政審会長の発言が報じられたことがきっかけになった。
橋本聖子氏側「ヒアリングはしないといけない」
報道によると、橋本氏は、2013年2月6日の自民党参院議員総会で、選手15人について、「長年のいろいろな問題を訴えることには非常に大きな責任がある」と指摘し、こうも述べた。
「プライバシーを守ってもらいながらヒアリングをしてもらいたいというのは、決していいことでない」
「15人の選手が表に出ていないことをどう判断するか。非常に大きな問題だ」
橋本氏は、JOCが設置した緊急調査対策プロジェクトのメンバーになっており、選手らからの聞き取りに当たっての不満を述べたらしい。これが一部で、橋本氏が選手15人の名前を公表するように求めたと報じられた。
これに対し、ネット上で議論が盛り上がり、「逆に晒し者じゃねえか」「内部告発できなくなるだろ」といった反対論も相次いだ。
一方、橋本氏の事務所ではこの日、マスコミへのFAXで「『氏名を公表すべき』とする発言はいたしておりません」と一部報道を明確に否定した。発言の趣旨は、「氏名を公表しないことについて厳しい意見もあることから、今後、どういう方法で選手を守りながら、これまでの経緯や事実を明らかにするかを検討すべき」ということだというのだ。
この意味について、事務所の秘書は、「会議室などでヒアリングをすればマスコミなどに名前が漏れる可能性があるので、特別な配慮が必要だということです」と取材に説明した。そのうえで、「このままでは事実関係が分かりませんので、選手にヒアリングはしないといけないと思っています」と言っている。
「仲間が受けていて止めてほしいという選手は多い」
とはいえ、週刊誌では、実際に暴行やパワハラを受けたのは、告発した選手15人ではなく別の選手で、すでに園田隆二元監督らとは和解しているとの報道も出ている。15人は、一部指導者の旗振りでこの選手の暴行などを告発しただけで、背景には柔道界の派閥争いがあるというのだ。
産経新聞では、2013年2月6日のサイト記事で、選手側の要求だけが形になるのは違和感があるとし、旗振り役がいる疑念をぬぐうためにも、「選手は表に出て肉声を世に届けるべきではないか」と記者が指摘している。ネット上でも、「陰であれこれ言うのはいただけない」「政治的なものにみえるわ」といった疑問の声も増えてきている。
そんな中で、15人の代理人をしている辻口信良弁護士が、選手が望むなら名前を明らかにすることも検討していると報じられた。
辻口弁護士は、取材に対しては、名前公表に否定的な考えを示した。
「選手と言っても、企業内の告発の側面があり、地位が担保されなければムリでしょうね。絶対ないとは言いませんが、しがらみが強い世界で、報復が目に見えています。彼女たちの利益にはなりません。名前を公表しても、一般の人にも利益がありませんし、興味本位でマスコミが飛びつくだけですよ」
ただ、JOCのヒアリングには応じるつもりだと明かす。
「匿名ではなく、非公表ということで、15人はみな事実関係を話したいと言っています。第3者機関に善処をお願いするということです」
また、暴行やパワハラはあったとしながらも、こう言う。
「15人全員がそういうわけではなく、仲間が受けていて止めてほしいという人は多いことは事実です。しかし、指導者の旗振りや派閥争いからではなく、自分たちで考えて起こした行動です。選手へのリスペクトが感じられず、同じ体制ではかなわないと感じたわけですから」
ちなみに、企業社会では、内部告発した労働者を保護し、不利益な扱いを無効とする公益通報者保護法があり、06年4月1日に施行されている。