スマートフォン(スマホ)販売で苦戦が続くNTTドコモに、親会社のNTT、鵜浦博夫社長が注文をつけた。
競合するKDDIとソフトバンクモバイル(SBM)は、米アップルの「アイフォーン(iPhone)」効果で好調だが、逆にドコモからは顧客流出が止まらない。「iPhone抜き」のスマホのラインアップとドコモ流の「接客術」で対抗する構えだが、状況は打開できるだろうか。
種類豊富だが「どの端末も同じに見える」
NTTの2012年4~12月期連結決算は、営業利益が前年同期比1.6%減となる9932億円だった。グループ会社のドコモが、営業利益で同5.6%減の7021億円と不調だったのが響いている。
KDDIとSBMが2012年9月21日に「iPhone5」を発売して以降、番号持ち運び制度(MNP)によるドコモの転出超過は、2012年10~12月で約53万件に上った。利益減を覚悟で販促費を増やして販売を強化するも、iPhone5をしのぐようなヒット商品はなかなか生まれない。電気通信事業者協会が2013年2月7日に発表した1月の契約数を見ると、ドコモは解約数が新規契約数を上回って1万2900件の純減を記録。SBMが24万1600件、KDDIも16万7500件のそれぞれ純増だったのとは対照的だ。
低迷から抜け出せないドコモに、NTTの鵜浦社長は決算発表の席で「あくまでドコモ側の決定を尊重する」との前提で、「ユーザーのニーズにこたえることも必要だ、との思いでドコモと意見交換しています」と述べた。親会社として、ドコモに状況の悪化を何とか食い止めるよう促していることが分かる。
現時点では、iPhone以外の端末で勝負する方針だ。ドコモの加藤薫社長は1月30日の決算発表時に、スマホラインアップの絞り込みについて言及した。現状でもドコモには、ソニーやシャープ、富士通といった国産メーカーから、サムスン電子やLGという韓国勢、中国ファーウェイに「ブラックベリー」まで、扱っているメーカーと製品が多岐にわたる。だが、モバイル機器に詳しい武蔵野学院大学准教授の木暮祐一氏はJ-CASTニュースの取材に、「どの端末も同じように見えてしまう」と厳しい。小型パソコンといえるスマホだが、「商品開発の時点で、電話会社の発想から抜け出せておらず、利用者が本当に求めているものとのギャップがあると感じます」と指摘する。
接客は評価されるが待ち時間の長さに不満
ドコモは端末だけでなく「現場力」、すなわち販売店での接客強化も目指しているようだ。2013年2月5日放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京系)は、ドコモが年に1度開催する「接客コンテスト」の様子を取り上げた。全国3万5000人の店頭スタッフのなかから勝ち抜いた9人が、都内の会場内につくられた模擬店舗で実際に接客術を競うものだ。
顧客に扮した人が「KDDIのiPhone5を購入したいので、ドコモを解約したい」と店を訪れたという設定もあった。番組の取材に応じたコンテスト出場者のひとりは、実際に同様の場面で「iPhoneでやりたいことを聞いてみると、ドコモのスマホでできることも多い。そのことをお客様にお知らせし、ご提案します」と話していた。他社への流出を食い止めるために、機能的にはドコモのスマホがiPhoneに十分対抗できることを直接伝えるというわけだ。
木暮氏もドコモ販売店の接客は高く評価するが、「それだけで現状を打破するのは難しい」と首をひねる。店頭での接客向上を目指しているのは、競合他社も同じだ。また接客内容の質とは別に、混雑による待ち時間やサービス内容の複雑化による説明時間の長さといった不満を口にする顧客も少なくない。
ドコモはiPhone発売の有無について、いまだに明確な答えを出していない。木暮氏は2012年12月7日付のJ-CASTニュース記事の中で、事業戦略を見直して「iPhoneを発売すべき」と主張していた。今回の取材でも同様の考えを示したうえで、「通信料金でかせぎたい、電話会社の視点でスマホをつくりたい、との考えを捨てて、今こそ視野を広げて客のニーズに応じた商品開発に努める姿勢が重要」と強調した。