キャッシュカードやクレジットカードの情報を盗み出して不正に物品を買ったり現金を引き出したりする「スキミング」の被害が首都圏で相次いでいる。
国内のスキミングの被害は5年ほど前がピークで、ここ数年は落ち着いていたようだが、ブルガリアを拠点とする犯行グループが、日本にも手を伸ばしているようだ。
暗証番号を読み取る隠しカメラも仕掛けられていた
朝日新聞や産経新聞が2013年2月上旬に報じたところによると、12年10月から12月にかけて、首都圏の銀行6店舗で現金自動預払機(ATM)にスキミング装置が取り付けられ、顧客預金が不正に引き出される被害が発生したという。スキミング装置は実際のATMのカード挿入口にかぶせる形で設置され、暗証番号を入力する様子を見る、隠しカメラも仕掛けられていたという。防犯カメラには東欧系の男女約10人が映っており、ブルガリア人の犯行が疑われている。
ただ、情報セキュリティに関する啓発事業を行っているNPO法人の日本情報安全管理協会(東京都港区)によると、この種の犯行手口の日本での被害は5年ほど前がピークで、「目新しさは見受けられない」という。
確かに当時の新聞記事を確認すると、愛知・岐阜の両県で「ATMのカード差し込み口に、読み取り装置を取り付けたうえ、天井に設置した小型の盗撮カメラで暗証番号を盗み見る手口」(06年3月8日、読売新聞)で、カードを偽造して預金を不正に引き出したとして、男2人が逮捕されている。
これとは別に、05年下半期には、旧UFJ銀行(現・三菱東京UFJ銀行)の愛知県内の店外ATMで盗撮カメラが設置される被害が多発。どのような手段でスキミングが行われたかは不明だが、盗撮被害を受けた人のカードが、東京都内のATMで使用されたことも確認されている。
これらの被害の後、銀行側は防犯カメラの数を増やしたり、スキミングが困難とされるICカード対応型のATMへの切り替えを進めたこともあって、ここ数年では、被害は減少してきた。
今回発覚したブルガリア人グループは世界中で犯行を重ねており、マフィアの関与も有力視されている。この一団が日本に「新規参入」したということのようだ。その手口も、さまざまなものが確認されている。
スキミング装置をクロワッサンに詰めて密輸企てる
例えば12年9月にはアフリカのウガンダのテレビ局が、4人のブルガリア人がスキミングで逮捕されたことを報じている。その際に、様々な器具が押収されているのだが、その中には「ATMを分解したり、システムを破壊する」ことができるものもあったという。単に「カード情報を抜き取る」にとどまらない犯行に及んでいた可能性もある。
まさに「犯罪が輸出されている」といった様相で、このウガンダのケースでは、容疑者のひとりは隣国ケニアの運転免許を持っており、複数の国で犯行に及んでいた可能性がある。
また、12年9月にタンザニアでスキミングの容疑で逮捕された国籍不明の男は「ブルガリアで訓練を受けた」と供述。それ以外にも、13年2月1日には、ブルガリアの通信社が、ブルガリア税関がドイツとの国境でスキミング装置を押収したことを伝えている。記事によると、スキミング装置は分解され、ブルガリア人旅行者のカバンの中のクスリのビンやクロワッサンの中に隠されていた。
このような手口の犯罪が日本に「再上陸」した、ということのようだ。全国銀行協会の調べによると、偽造キャッシュカードによる預金などの不正払い戻し件数は、05年度の778件(8億1900万円)をピークに減少傾向。11年度には375件(2億3300億円)の被害が確認されている。