学校側、2件体罰を県教委に報告せず
「豊川工業高の陸上部でも大阪・桜宮高のような体罰が行われている」
豊川工業高陸上部の体罰問題が表面したきっかけは、1月11日に愛知県教委に寄せられた複数の内部告発情報だった。同校はA教諭への聞き取りや陸上部員へのアンケート結果をもとに体罰の事実を県教委に報告し、その内容を地元マスコミがキャッチしたことから全国ニュースに発展した。
だが、そもそも同校は12年7月と10月に2人の陸上部員が転校や退学に追い込まれるまでの体罰を受けたことを把握しながら、県教委の「体罰報告義務規程」を無視する形で握りつぶしていたのだ。さらに09年1月に保護者に体罰を指摘された際、学校側は「ほかにも複数の部員が体罰を受けている」という情報を耳にしながら生徒への聞き取り調査にすら着手しなかったという。
12年の体罰2件を報告しなかったことについて、豊川工業高は「体罰を受けた生徒と保護者の希望」とし、「自分たちが原因で陸上部が大会に出場できなくなるのは本意ではないと言っていた」と話す。都合の良すぎる釈明は果たして本当なのか。
A教諭を巡っては、桜宮高のバスケ部顧問と同様、同じ学校での勤務期間が長期に及んでいた。豊川工業高に着任以来、1993年から異動がなく約20年間にわたり陸上部を指導し、2011年まで14年連続で男子チームを全国高校駅伝に導いた。04年の大会では準優勝にも輝いている。
中学・高校の校長を務めた経験を持つ教育ジャーナリストの野原明氏は中日新聞にこんな内容のコメントをしている。「私の校長経験から言えば、強い部活動の顧問は発言力が強くなり、良くないと分かっていても周りの教員が口を出せなくなる。長年学校にとどまっている教員に対してはなおさらです」
同校や県教委によると、A教諭に対する処分時期は未定で、今後の詳しい調査を経た後になる。体罰問題が発覚して以来、陸上部の指導はA教諭を除いた4人の顧問教諭が当たっており、2月3日に催される「名岐駅伝」には予定通り出場する。
だが、指導者がいなくなったことで2年生の中には精神面で不安定になっている部員もおり、同校はスクールカウンセラーを増員して心のケアに当たっているという。「A教諭の指導を受けたくて豊川工業高に来たのに、今は通学する意味を見出せない」という部員も少なくなく、同校は対応に苦慮している。