「柔道の開祖・嘉納治五郎が説いた精神・哲学からかけ離れている」「強く非難する」--柔道女子日本代表を含む選手らが練習中の暴力行為などを告発した件をめぐり、国際柔道連盟が2013年1月31日、こんな声明を発表した。
世界的なニュースにまでなってしまったこの暴力事件が、国内で支持を得つつある東京オリンピック招致に悪影響を与えるのではないかとの懸念が強まっている。
「IOCが一番嫌がる暴力行為が温存しているとなればマイナス」
東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会は2013年1月31日、10日から20日に行った都民に対する支持率調査(5回目)の結果を発表した。「賛成」が前回から7ポイント増加し、73%となった。70%を超えたのははじめて。市原専務理事は、柔道の暴力問題について、「(招致への)影響はない」と断言したが、今後の展開次第では、スポーツへのイメージが低下し、支持率に響くことも考えられる。国内の支持率は、評価委員会が開催地を決めるにあたって重要な要素とされる。
しかし、それ以上に問題になりそうなのが国際社会の目だ。「日本の招致委員会は9月の投票までにいかなるネガティブな風評をも避けるために奔走することだろう」とロイターは31日に書いた。しかも、投票に先立ちIOC評価委員会の日本視察が3月4日からと1か月後に控えている。
スポーツライターの二宮清純氏は31日放送の「ミヤネ屋」(読売テレビ)で、すでに覆面の調査員が日本に入ってきていると聞いているといい、世界から日本がどう見えているかを考えて、体罰問題の対策をしていく必要があると指摘した。
「日本のお家芸である柔道で、IOCが一番嫌がることである暴力行為が温存しているとなれば、マイナスでしょうね」と事態を重く見る。
国際オリンピック委員会(IOC)では暴力の禁止を憲章にかかげている。2004年のアテネ五輪では、韓国の柔道選手にコーチが平手打ちした様子を見たカナダの選手がIOCに通報、コーチの大会IDが即座に剥奪されたという事件もあった。31日報道のひるおび!(TBS系)によると、これが国際基準で、「体罰なんてよくあることと」ととらえがちな日本と、海外との温度差は大きいという。
桜宮高校体罰自殺、内柴正人被告も引き合いに…
今回の事件については、すでに海外メディアが相次いで取り上げている。英BBCでは「日本では体罰の使用は今にはじまったことではない」として、同じ記事中で2007年に「かわいがり」で17歳の力士が死亡した事件や、大阪・桜宮高校でのバスケ部体罰自殺について触れた。また、米AP通信は「日本柔道界の一連の不祥事」として、準強姦罪で懲役5年の判決を受けた柔道金メダリストの内柴正人被告と並べて伝えている。柔道がきっかけとなり、イメージの低下が日本スポーツ全体にまで波及していっている格好だ。
こうした流れに、2月1日放送の「朝ズバッ!!」(TBS系)では、毎日新聞の与良正男論説副委員が「外国の反応がこれだけ厳しいのは、日本人の人権意識がまったく乏しいんだと人権意識の問題ととらえるからで、日本の人権意識は暴力をふるうんだと、だからこういうことになるんだということでしょうね」と話した。また、経済学者の尾崎弘之教授は、今後の対応がまずければ「(人権意識の強い)ヨーロッパがネガティブキャンペーンをやってくることも十分に考えられる」との懸念を示していた。