長崎県対馬市の寺から盗まれた仏像が韓国に密輸され、容疑者グループが韓国当局に逮捕された。仏像は無事に回収され、国際法上は鑑定が終わり次第日本に戻ってくるはずなのだが、思わぬ形で「待った」がかかっている。仏像が造られたとされる韓国の寺の信徒が「仏像は日本に略奪された」などと主張し、日本に戻すことを反対しているのだ。
釜山港の税関では「模造品」と判定されていた
対馬市では2012年10月上旬、文化財を狙った窃盗事件が相次いだ。盗まれたのは、海神神社にあった国指定重要文化財「銅造如来立像」や観音寺にあった長崎県の有形文化財「観世音菩薩坐像」など。いずれの像もガラスのケースでおおわれており、1人で持ち出すことは困難なことから、グループによる犯行が疑われていた。
年が明けた1月29日に韓国の警察当局が容疑者5人を窃盗と密輸の容疑で逮捕し、供述に基づいて仏像2体も無事に回収した。博多港から船で釜山港に仏像が持ち込まれた際、税関担当者が仏像を「模造品」と判定して通関させてしまったことから、韓国国内では税関当局に対する批判の声も出ている。
地域住民「日本大使館への抗議活動など、多角的な返還運動を繰り広げるだろう」
仏像は非常に保存状態が良く、民放のSBSによると、「銅造如来立像」については専門家が「直ちに国宝に指定しても全く遜色ない」と激賞。だが、「観世音菩薩坐像」の扱いについて議論が噴出している。この像は、像内に残された文書から、1330年に韓国西部の瑞山市にある浮石寺で造られたことが分かっている。
聯合ニュースによると、この浮石寺の信徒会が、像は日本に略奪されたものだとして返還に反対する運動を展開することになった。地域住民も「日本大使館への抗議活動など、多角的な返還運動を繰り広げるだろう」などと話しているという。行政もバックアップする模様で、瑞山市の担当者は、国際法との整合性について検討しながら、姉妹都市の奈良県天理市にも支援を要請する方針だ。
同じく聯合ニュースによると、浮石寺の上部団体にあたる曹渓宗も1月31日、
「返すかどうかについては、徹底した調査を通じた慎重な決定が必要だ」
「私たちの文化遺産が日本に搬出された経緯と一緒に、日本の所蔵先が入手した経緯を徹底的に把握して究明しなければならない」
と、日本への返還に慎重なコメントを出している。
メディアでは「略奪の証拠ない」の声も
メディアの間ででは、仏像の扱いについての意見は割れているようだ。朝鮮日報は、「日本への返還めぐり意見分かれる」と両論併記。中央日報も、「布教目的で仏像を渡した可能性がある」「略奪の可能性を排除できない」と、同様だ。だが、前出のSBSは、
「日本側は、具体的な流入経路をごまかしたまま、可能性が薄い話を並べている」
と日本に渡った経緯を疑問視している。ソウル新聞は逆に、論説記事で
「倭寇や、壬辰倭乱(文禄・慶長の役)当時の倭軍の略奪を思い出させることができるが、やはり証拠はない」
と、仏像を日本側に戻すべきだと主張している。
ちなみに長崎県のホームページでは、この像について、「朝鮮半島の高麗銅造仏で,制作時と安置寺院のわかるものは稀であり、誠に貴重な尊像といえる」と紹介されている。