自民、公明両党が2013年1月24日、2013年度税制改正大綱を決定したが、焦点の自動車2税を巡り、自民党内が最後まで紛糾した。
安倍晋三内閣発足後、初の税制大綱は「アベノミクス」を支える重要な柱で、安倍首相にすれば「決戦」と位置付ける参院選に向けた「安全運転」のためにも、与党一丸の経済再生への取り組みをアピールしたいところだった。しかし、与党復帰で意気上がる党内では野党時代に抑えられていた政策実行への欲求不満が爆発した形だ。
自動車業界から「消費税との二重課税」との不満
自動車関係2税、すなわち取得時にかかる自動車取得税(地方税)と車検の度にかかる自動車重量税(国税=約半分は地方に譲与)については、自動車業界から「消費税との二重課税」との不満があったが、消費税率が2014年4月から8%に、2015年10月には10%に引き上げられることが決まり、業界は「もはや我慢できない」(経済産業省筋)と、12年秋から猛烈な2税廃止運動を展開。
経産相は11月、2税存続なら消費税率10%になった後の2016年度の国内新車販売台数(軽を含む)は374万台と2012年度見通しの480万台から133万台減るとの試算もまとめ、業界を側面支援している。
一方で、2税は重要な財源で、財務省や総務省・自治体にとっては簡単に手放せない事情もある。取得税と、重量税のうちの地方への譲与分を合わせた税収は約5000億円で、自治体側は他の代替財源がなければ2税廃止は認められないと主張した。
自動車業界は一歩前進とはしつつ不満強い
今回の税制改正論議は、この対立する主張にどう折り合いをつけるかが問われた。結論から書くと、取得税については消費税が10%になる2015年段階で廃止することとし、代替財源論議を先送りし、重量税は存続と、業界・地方自治体が痛み分けの玉虫色の決着になった。取得税は税率が5%なので、2015年時点で消費増税分と相殺されることになり、自動車業界は一歩前進とはしつつ、8%への引き上げ段階では取得税もそのまま残るため「引き上げ前の駆け込み需要とその後の反動減が心配」(大手メーカー)との不満は強い。
また、現在、ハイブリッド車などはエコカー減税で取得税が今も免除されているので、消費税上げ分はそのまま負担増になるという皮肉な事態になる。このため、エコカー優遇策の拡充が課題として残った。
この間の議論はかなり迷走した。それはマスコミの報道ぶりの混乱を見ればよくわかる。1月19日付朝刊で、「毎日」は「2税廃止見送りへ」と早々に踏み込んで「特ダネ」を報じると、20日朝刊で「読売」が「取得税廃止へ」と打ち返し、「日経」は21日朝刊段階でも「取得税に廃止案」と、まだ慎重。
この時点の廃止論は取得税廃止の税収の穴を重量税の国の税収部分で埋めるというもので、経産省が妥協案として18日に自民党税制調査会小委員会で示したものだった。当面存続するという意味では「毎日」の「廃止見送り」も間違いというわけではなく、読売などの廃止論も、2015年に先送りされたという意味で、最終結論とは違っており、報道も痛み分けだった。
道路特定財源の復活には反発も
そして、2税の紛糾の「トリ」が重量税を道路特定財源とする問題だった。24日の自民党税調総会で、幹部が示した税制改正大綱が淡々と承認されるはずだったが、文案に、重量税を「道路の維持管理・更新などのための財源と位置付ける」との記述があったことから、道路特定財源の復活と取られることを懸念する棚橋泰文政調会長代理らが反発し、高市早苗政調会長も「このような表現ぶりになるとは思っていなかった」と発言して議論が収まらなかった。
党税調の野田毅会長は前日に道路特定財源に戻すことを「否定しない」と語っていたが、結局、大綱を正式決定する党総務会で、野田氏が「特定財源ではなく一般財源」との説明資料を提出し、一般財源とすることで収まったが、首相に近い高市氏がひっくり返した格好になり、「取りまとめ役が文句を付けるなど民主党並みだ」(政調幹部)と、官邸の「介入」に不満も出ている。
道路特定財源は業界と族議員の癒着の象徴として民主党政権が最初の仕事として廃止しただけに、復活すれば「古い自民党の復活」「先祖がえり」などの批判は避けられない。野田氏ら党税調幹部は、自動車業界や自治体との厳しい議論の中で、道路の維持管理など業界、自治体にプラスになるように使うのだから重量税を残すことに理解してほしい、と説得したといわれ、その延長上での「道路特定財源復活」だったが、あえなく頓挫。「古い政治への『先祖がえり』の誘惑が自民党内では強い」(野党筋)との疑念を生じる結果になった。