退職金引き下げで地方公務員に駆け込み退職者が続出したことを巡って、議論が盛り上がっている。ネット上では、政治家が余裕を持って制度改変をしなかったことが悪いという声も多いようだ。
論争が起きたのは、埼玉県が2013年2月からの退職金引き下げを決め、100人以上が1月末で辞めることが発覚してからだ。
片山さつき議員「公務員の矜持は何処へ?」
報道によると、埼玉の標準的な教職員では、年度末の3月末で辞めるより、退職金が140万円多くなる。3月まで働いた場合の給与分を差し引いても、58万円多い計算だ。
これに対して、駆け込み退職をすることについて、職場放棄だとの批判が巻き起こった。下村博文文科相が1月24日、クラス担任らもいるとして、「決して許されない」と会見で憤る事態になった。
ネット上でも、識者らからの発言が相次いでいる。
自民党の片山さつき参院議員もブログで、「公務員の矜持は何処へ?」と疑問を投げかけた。「生徒を放り出したと言われ、周りから、あるいはマスコミからも批判されうるであろうことは、普通の常識があればわかるでしょうに」と嘆いたのだ。
そして、NHKのキャスターが「こういう現象を生むような引き下げのやり方が悪い」といったニュアンスの発言をしたと疑問をぶつけた。それでは、退職金を引き下げるべきでなかったと言いたいのか、という批判のようだ。
駆け込み退職については、現場のトップからも異論が出た。
神奈川県の黒岩祐治知事は、23日の定例会見で、「退職金ということで、生徒たちを置き去りにし、ポイと辞めてしまうというのはやりきれない。生徒たちがかわいそうだ」と苦言を呈したのだ。
相次ぐ批判について、ネット上でも、「確かにこういう見方もあるなー」などと共感の声はある。しかし、現場の地方公務員だけに責任をなすりつけることへの疑問は多い。
「想定してなかったのが問題だ」疑問も多く
「そもそも退職金制度を猶予期間も置かずポンといじること自体がおかしい」
「これは結局はそうなるだろうと想定してなかったのが問題だよなぁ」
「しょうがないよねぇ。先生にも人生とか生活があるんだもの」
ツイッターなどでは、そんな意見も相次いでいる。
また、駆け込み退職について、「生徒もかえって清々するかも」「教師たちの最後の教えなのかもしれない」といった見方もあった。3月末までマジメに働いた人が損をするのはおかしい、との指摘も出ていた。
ところで、現場では本当に、「職場放棄」と言えるような影響が出ているのか。
埼玉県県教委の小中学校人事課によると、駆け込み退職する教員54人については、臨時任用職員で補うめどがついた。病欠などに備え、教職希望者が多数登録しているためだという。子どもたちへの影響が少ないように、担任18人については、校内で担任をしていなかった教員をあてがう。とはいえ、クラスをよく知っているとは言えず、多少の影響は出ると明かす。
担当者は、「校長からの慰留はあったはずで、最後までやってほしかったという思いはあります」と言う。ただ、「辞める先生にも、個々に事情があると思いますので、強くは言えません」と漏らした。
ちなみに、埼玉と同じく2月から退職金を引き下げる栃木県では、駆け込まなければ140~150万円も退職金が減ってしまう状況は変わりがないとしたが、1月末の退職予定者はゼロだそうだ。人事課の担当者は、「理由はよく分かりませんが、影響を考えて辞めないと思ってくれているのでは」と言っている。