大阪市立桜宮高2年のバスケットボール部主将が顧問教諭から体罰を受けて自殺した問題に絡んで、「体罰は教育である」を信条とする戸塚ヨットスクール校長・戸塚宏氏(72)の発言が波紋を呼んでいる。
「体罰をした顧問の思いも考えてやるべき」「自殺した生徒にも問題がある」――。同氏は2013年1月13日に出演したテレビ番組でそう語り、ネット上には今も反論や怒りの声が相次いでいるのだ。一方、かつては「体罰容認」を主張していた大阪市の橋下徹市長は自殺した生徒宅を弔問した後、「考えを改めて猛反省している」と述べた。
男性アナの異論を「黙れ」と一喝
戸塚ヨットスクールは1970年代後半、「情緒障害児などの指導に効果がある」などと評判になったものの、暴力を伴う厳しい指導で複数の死者を出したことから、戸塚氏は傷害致死罪で収監された経歴を持つ。
戸塚氏が今回出演したのはテレビ朝日の「サンデースクランブル」で、開口一番、こう切り出した。「まず考えたのは、顧問は多くの子供に体罰をやったのになぜあの子だけがあんなことになったのか。不思議に思わないですか。全員が自殺したなら問題だろうが、あの子だけということはあの子にも問題があったということですわ」
女性アナウンサーが怪訝そうな表情で「生徒の側に問題があったということですか?」と質問すると「当然です」と即答し、「本当に体罰で死んだのかどうかも分からない」などと述べた。
続けて「(自殺した生徒は)キャプテンになったわけでしょ。だけど本当はその力がなかったわけでしょ、本人が悩むくらいなんだから」と遺族感情を逆なでするかのようなコメントを発し、男性アナの「30~40発殴ることが必要なのか?」という問いに対しては「だって彼が現に今、キャプテンなんだから。頑張ってもらわないと」と顧問教諭を擁護した。
また、自らの経験に基づいた体罰肯定論を披露している途中で男性アナが異論を差し挟んできた際には「黙れ」と一喝。「(マスコミの)諸君は現場にいたこともないのに、分からないくせに、偉そうに現場を指導するようなことを言う」と声を抑えながらも積年の怒りをぶちまけた。
加えて、「この1年間で体罰で処分された先生は全国で400人。実際に体罰にかかわったのは百何十人かだが、表面化したら処分されることを分かったうえで、それでも体罰をやったということをよう考えてあげないといけない」と語り、体罰は教育上必須の指導法であるとの自説を改めて強調した。
橋下市長「僕も考えを改めなくてはいけない保護者の1人」
一方、大阪市の橋下市長は1月12日、生徒宅を訪問し、体罰と自殺の因果関係を認めたうえで「すべて行政側の責任で弁解の余地はありません」と両親に謝罪した。
面会後の囲み会見では、運動部での体罰指導についても言及した。中学、高校とラグビー部員でレギュラーとして全国大会にも出場した橋下市長は「スポーツの指導で頭をたたかれたり、手をあげることはあり得ると考えていたが、認識が甘かった」と述べ、「顧問と生徒という絶対的な上下関係の中で厳しい指導を認めると、こういうことになってしまう。むしろ暴力は厳格に排除しなければいけない、という認識が不十分だった」と語った。
主将の自殺後もバスケ部員らの中に「顧問の指導を受けたい」などの声があることに対しては「これは異常な世界。勝つためには(体罰などの)厳しい指導が必要という意識を保護者も改めないといけない。僕もそうした考えの1人だった」と話した。
戸塚氏、橋下市長のコメントに対してツイッターやネットの掲示板に寄せられた意見を紹介すると、まず戸塚氏については「なぜ彼のような人物をテレビに出すのか」「傷害致死で実刑判決を受けた人物をなんでコメンテーターとして出演させるのか」といった内容が最も多かった。
同氏の発言については「家庭内暴力などを起こしていたヨットスクールの生徒と、高校のバスケ部を一緒くたにして話している」などの声が目立った。
「(学力向上のためには)口で言ってダメなら手を出さないとしょうがない」「蹴られた痛さが分かれば(いじめの)歯止めになる」。
こうした体罰容認論を2008年や2011年に繰り返していた橋下市長を巡っては、「現実を知って考えを改めることは悪いことではない」と評価する声が一部に見られたものの、「その場の空気を読んで、また心にもない謝罪を口にした」「頭の悪いやつには謝罪をいとわない爽やかな人物に見えるからキケン」といった内容の意見が多かった。