著書にベストセラーの「ロングテール」や「フリー」がある、「ワイアード」US版編集長のクリス・アンダーソン氏の「MAKERS 21世紀の産業革命が始まる」が注目されている。
パソコンとインターネットさえあれば、自らが工作機械を持たなくても製造業に参入できるというのだ。米国では「メイカーズ革命」が大きなムーブメントとなっていて、その波は日本にも及んできた。
個人のアイデアが「製品」になる!
いま、米国を中心に広がっている「メイカームーブメント」とは、「パーソナルファブリケーション」(個人製造)だ。簡単に言えば、「誰もがものづくりができる時代がやってきた」ということ。ブログやソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)の普及で、テキストや写真、音楽、動画といったコンテンツを手軽に発信、共有できるようになったが、とうとう製品までつくれるようになった。
たとえば、趣味でつくった製品をオープンなプラットフォームを活用して公開。コミュニティをつくり、そこでアイデアを共有すれば、協力者(サポーター)とのコラボレーションが始まる。
材料を調達して部品を製造、それらを組み立てるプロセスを、WEBの製造受託サービスやマッチングサイトを利用することで、企業がもつような工作機械がなくても、個人が企業と同じような製造能力を手に入れられるようになった。
効率的な生産が可能になり、また新たなアイデアが加わることで製品に磨きがかかることもある。こうした「協業」は、アイデアや技術を「秘密」にする企業にはなかなか難しく、「メイカーズ」ならではの動きかもしれない。
事業化したいと思えば、資金だってネットで借りられ時代だから、パソコンとインターネットさえあれば事実上、製造業を起業できる。
大量生産には時間がかかるかもしれないが、「思い浮かべることができるなら、必ずそれをつくることができる」(クリス・アンダーソン氏)。
週刊東洋経済(2013年1月12日号)は「メイカーズ革命」を特集。「誰でも、ものづくりスターになれる!!」とのサブタイトルを謳っているが、まさにそれが日本でも現実になってきたことを伝えている。
同誌は、LEDデスク照明「ストローク」の開発から販売までを一人で手がけた「ビーサイズ」の八木啓太社長や、父親が精密板金工場を経営、「点灯するネックレス」をつくった「ものづくり系女子」の神田沙織さんなどを紹介していて、神田さんは「(レーザーカッターと3Dプリンターなどの普及で)こんな商品が欲しいとアイデアが思いついたときに、実際に手にできる形にしやすくなった」と話している。
3Dプリンターは「魔法の杖」
クリス・アンダーソン氏は著書「MAKERS」の中で、「デスクトップ」でのものづくりに必要なデジタルツールを紹介している。
画面上で自分のアイデアを表現(デザイン)するための道具として「CADシステム」は必要で、「ものづくりのワープロソフトのようなもの」という。
また、立体物を出力する「3Dプリンター」があれば、究極の試作ツールをつくれる。アンダーソン氏は3Dプリンターをメイカームーブメントの象徴的存在とし、「魔法の杖になる」としている。
立体物のデータを読み取る「3Dスキャナー」と、プラスチックや金属、木材などを切り出して加工する「CNC装置」、強力なレーザーで素材に模様を描き出す「レーザーカッター」は手元になくてもよいが、あれば万全。たしかに、最近はレーザーカッターや3Dプリンターといった工作機器は性能がよくなり、専門的な訓練を受けたことがない人でも扱いやすくなっている。
「ものづくり」が、ぐんと身近になってきた。